生きていれば、現実から逃げ出したいほどつらい思いをすることはある。しかし気持ちを紛らわせるための手段としては危険で、見過ごすことはできない。
市販薬を過剰摂取(オーバードーズ)して救急搬送された急性中毒患者は、若年女性が圧倒的に多いことが、厚生労働省研究班による初の疫学調査で分かった。
2021年5月から22年12月までに全国7救急医療機関に搬送された122人を調べたところ、患者の平均年齢は25・8歳で、女性が8割を占めていた。
患者は吐き気や意識障害、錯乱などの症状で搬送された。亡くなった人はいなかったが、甘く見てはならない。
過剰摂取は内臓への負担が大きく、臓器不全で死に至ることがあるからだ。薬物使用への抵抗感が薄れ、大麻や覚醒剤などに進んでしまう懸念もある。市販薬でも不適切な服用は危ない。
調査によると、解熱鎮痛剤やせき止め、かぜ薬などが使われ、患者の6割以上がドラッグストアといった実店舗で購入していた。
簡単に入手できる上、情報入手に交流サイト(SNS)が使われることも多い。そうした手軽さから、中高生などに依存や乱用が拡大する心配もある。
厚労省は市販薬に使用される成分のうちの一部を「乱用等のおそれのある医薬品」に指定し、子どもが買う場合は年齢確認を徹底するよう販売者に呼びかけている。
子どもへの適切な服薬指導が必要だ。学校や家庭では過剰摂取の危険性を話し合ってもらいたい。
摂取理由は、死のうとしたなどの「自殺・自傷」が多かった。現実逃避やストレス発散の手段にしたケースもあった。
若い人は、恋愛での不安や悩み、家族との関係などを巡って葛藤(かっとう)を抱えがちだ。嫌なことを忘れたくて、気軽に手を出してしまったという人もいる。
服用をやめさせるには、背景にある心と体の不調に目を向けることが欠かせない。
薬以外の選択肢を持ってもらうためにも、医師や周囲の人には不安に寄り添い、信頼できる話し相手となってほしい。
調査では、患者の8割以上が家族や恋人などと同居していた。孤立状態に見えない人でも、悩みを話すことができず、強い孤独を感じているということだろう。
2万人を対象に政府が実施した22年の孤独・孤立の実態調査では、孤独感が「ある」と答えた人は計約40%に上る。
女性の自殺は3年連続で増加した。孤独や孤立が深刻化していると言えるだろう。
生きづらさを抱える若い人や女性に、安心できる居場所を見つけてもらうことが大切だ。悩む人の不安や不調に気付き、孤立させない対策を社会全体で考えたい。
