乗用車がなくては生活しにくい地方の暮らしを、ガソリン価格の高騰が直撃している。物価が軒並み上がる中で負担は大きく、補助延長は家計の助けになる。

 しかし、場当たり的に延長を重ねるのでは政策の妥当性が揺らぎかねない。政府は先を見据えた対策を早急に講じるべきだ。

 レギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格が185円60銭となり、最高値を更新した。値上がりは15週連続で、本県では183円20銭になった。

 夏に入って原油相場が上がり出したところに、円安基調が追い打ちをかけた。

 事態を受けて岸田文雄首相は、価格抑制のための補助金を7日から段階的に拡充すると決めた。9月末で終了する予定だった支援期間も、年末まで延長した。

 唐突な方針転換は、世論の反発が想定を超えたためだろう。

 政府が1月から補助金を段階的に縮小していたことも、急激な価格上昇につながり、お盆明けからは、延長を求める与党議員の声が強まっていた。

 8月の共同通信の世論調査では内閣支持率は33・6%と最低水準に落ち込んだ。これ以上の下落を避けたい思いはあろう。

 ただ延長を続ければ、いずれは税負担という形で国民に跳ね返ることを忘れてはならない。

 政府が2022年1月にガソリンへの補助を開始してから、つぎ込まれた額は、3月末時点で3兆円を超えている。

 車を持たない人には恩恵がない一方で、車を持っていれば高所得者でもメリットがあり、税金の使い方として公平性を欠くといった意見も根強い。

 ガソリン価格への補助は、化石燃料の消費を助長し、脱炭素に逆行するとの指摘もある。

 その場しのぎで補助延長を繰り返し、公共交通機関が発達した都市と、車社会の地方の間に無用の対立を招いてはならない。政府による丁寧な説明が不可欠だ。

 野党にはガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の凍結解除を求める声があったが、岸田首相は流通現場に混乱が生じるとして見送った。

 原油価格や為替相場の先行きは見通せず、高騰がいつまで国民生活を圧迫するかは分からない。

 政府はあらゆる選択肢を排除せずに検討してもらいたい。生活困窮者への支援を厚くするなど、広く納得を得られるような出口戦略を急ぐべきだ。

 電気・都市ガス代を抑制する補助金についても、物価高に対する経済対策を策定・実行するまで当面、継続されることになった。

 9月になっても残暑はなお厳しいが、燃料費がかさむ本格的な冬はそう遠くない。

 政府には物価高でも安心して暮らせる抜本策が求められる。