離婚後の父母双方に親権を認めることが子どもの成長に有益なケースはあろう。だが単独親権を選べず、虐待を受けるなど子どもが不利益を被る事態の懸念も残る。

 大事なのは子どもの利益を守る制度となるかどうかだ。議論を重ね、丁寧に検討する必要がある。

 法相の諮問機関である法制審議会の家族法制部会が、子どもの養育を巡る要綱案取りまとめに向けた議論の「たたき台」を示した。

 民法を見直し、離婚後に父母双方の共同親権を可能とした。父母が協議し、共同親権とするか単独親権とするかを決める。合意できなければ家裁が判断する。

 昨年11月の中間試案では、単独親権だけの現行制度の維持案を併記していたが、初めて見直しの方向性を一つに集約した。

 共同親権には、父母双方が養育に関わることで親子関係が断絶されず、家族関係の多様化に対応できるほか、親権争いから起きる子どもの連れ去りを避けられるといった理由で支持する意見がある。

 海外では父母双方の養育が可能な国が多いとされ、欧州連合(EU)欧州議会は、日本人配偶者による連れ去りを問題視する。

 一方、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の被害に遭った当事者からは、元配偶者との関わりを避け、子どもを守りたいとして反対意見が根強い。

 連れ去りの実態も、DVからの避難だとの声は多い。パブリックコメント(意見公募)結果の傾向でも、団体の意見は共同親権賛成が多かったが、個人は反対が賛成の約2倍だった。

 当事者の不安がうかがえる。実態を踏まえた議論を深めていくことが不可欠だ。

 たたき台では、父母が協議で合意できなかった場合は、家裁が「父母と子との関係や、父母間の関係」を考慮して判断する。

 力関係が原因で相手の求めに応じたなど合意が不適正だった場合、その後の親権者変更手続きで合意形成過程を考慮するとした。

 裁判官のスキルを高める研修は必須だ。実態を把握できるだけの力量がなければ、子どもの安全を守れない可能性があるからだ。

 たたき台では、共同親権によって、子どもの進学や長期的治療といった重要事項は双方の合意で決める。どちらかを「監護者」に定めれば、日常的な教育や居所指定は単独で行える。

 離婚問題に詳しい弁護士は「何に合意が必要か不明確だ」と指摘する。子育てでは「日常」の線引きが難しい事案が多いためだ。

 最終的な要綱案の取りまとめに向けた今後の議論では、境遇や立場の違いで異なる多様な意見に耳を傾けなければならない。

 与党内には来年の通常国会での法改正を求める声があるが、慎重に検討を重ね、拙速に結論を出すことは控えるべきだ。