工事再開を目指す国にとっては後ろ盾になる判決だ。しかし民意との隔たりは大きく、判決を金科玉条として移設を推し進めるのでは禍根を残す。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設で、軟弱地盤改良工事の設計変更を承認しなかった沖縄県に対する国土交通相の是正指示は違法だとして、県が取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁が県側の上告を棄却した。

 辺野古移設で県と国が争った訴訟は13件あり、7件で県側敗訴が確定した。4件は和解や取り下げになり、現在係属中の2件も県の勝訴は厳しい見通しだ。

 今回の判決は法的対立の節目となる。国が埋め立て工事再開へ向かう可能性があるからだ。

 判決確定により、玉城デニー知事は軟弱地盤改良工事の設計変更を承認する義務を負う。

 移設反対を掲げ、変更不承認を移設阻止の「切り札」としてきた知事にとって、判決は極めて厳しい内容と言えるだろう。

 是正指示には承認を強制する「執行力」はないため、知事には従わない選択肢もある。

 その場合、国側が知事の代わりに承認できる「代執行」の手続きに入ることが濃厚で、工事再開へ進む可能性が高い。

 だが移設反対の民意は根強く、県民感情に反する形で工事再開を考えることはできない。

 沖縄では県知事選で過去3回連続で移設反対派が勝利し、2019年の県民投票では移設予定地の埋め立てに7割が反対した。明確な民意が何度も示されている。

 玉城知事は会見で「最高裁判決は出たが、辺野古断念を求める多くの県民の意思は変わらない」と述べた。政府は県トップの言葉を重く受け止めてほしい。

 判決は、国側が取り消しの裁決をした場合、同一理由で知事が再び承認しないのは「地方自治法の規定に違反する」とした。同じ理由での不承認が許されれば問題の迅速な解決が困難となるとして、是正指示も適法とした。

 一方で県側が設計変更に関して主張した環境への悪影響や国の調査不足には言及しなかった。

 国と地方が対等に扱われず、地方自治体の主張に対する判断も避けた判決では説得力を欠く。

 政府は普天間の危険性除去を移設の大義に掲げる。移設に前のめりな背景には、沖縄・尖閣諸島の実効支配を狙う中国や、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対処するため、日米同盟の抑止力強化を進めたい事情がある。

 しかし玉城知事が訴えてきた基地問題を協議する機会は設けられず、積極的に県民の理解を得ようとしているようには見えない。

 政府に求めたいのは、重い基地負担が続く沖縄に寄り添う姿勢だ。真摯(しんし)に向き合い、対話することから始めてほしい。