何度か通っている店なのに店名を覚えていないことがよくある。家電やら何やら、添付の説明書をまともに読んだことがない。すぐに「まあいいか」と思ってしまうのは、悪い癖だと分かっている
▼要するに「テキトー」なのである。だから他人のことをとやかく言うのは気が引けるが、原発事故に伴う処理水の海洋放出を巡る国側の対応にはさすがにあきれる
▼政府は処理水について「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」としていたが、漁業者の反対意見を押し切って放出に踏み切った。政治ジャーナリストの後藤謙次さんは本紙コラムで、今後数十年にわたっても必要な対策を続けることに全責任を持つとした首相の約束が「果たして説得力を持つだろうか」と指摘していた
▼放出が進められる中、経済産業相は理解なしに処分しないとした約束について「国は約束を果たし続けている。破られてはいない」と述べた。もはや意味が分からない
▼処理水放出の是非ではなく、政治への信頼の問題である。政府は米軍基地移設を巡っては「沖縄に寄り添う」と繰り返し、拉致問題は「内閣の最重要課題」と唱え続けている。当然ながら言葉は口にして終わりではない
▼中国が日本産水産物の輸入停止に踏み切り、その対応や支援に焦点は移ってしまったが、放出までの経緯をなかったことにしてはならない。あまつさえ、きのうは現職の衆院議員が受託収賄容疑で逮捕された。「まあいいか」と慣れてはいけない。自戒を込めて。