被害者の人権回復へのスタート地点に立ったに過ぎない。被害者に対して誠実に向き合って、救済と補償を確実に実行していかねばならない。
ジャニーズ事務所の創業者で2019年に死去した元社長のジャニー喜多川氏による性加害問題で、同事務所が記者会見し、社長を務めていた藤島ジュリー景子氏が性加害を事実と認め、謝罪した。社長辞任も表明した。
この問題で事務所が会見をするのは初めてだ。藤島氏は5月に動画で性加害を「知らなかった」としていたが、会見では「これだけ多くの方が声を上げ事実と認識した」と釈明した。
外部専門家による「再発防止特別チーム」が8月に、事務所での性加害は「1970年代から行われ、被害者は数百人」と報告した。藤島氏が事態を看過していた責任は大きく、社長辞任は当然だ。
後任の社長には所属タレントの東山紀之氏が就いた。藤島氏は代表取締役にとどまり被害者への補償に当たるという。
しかし、特別チームが求めていた「解体的出直し」には程遠い。
藤島氏は当面、事務所の株式を100%保有する。社長を社内から登用した上、東山氏は旧経営陣と近い。「同族経営」の弊害を脱し切れるのか疑問だ。
会見で東山氏は、特別チームの提言から時間が限られ「できる作業には限界もあった」と生煮えの対応だったと認めた。指摘を真摯(しんし)に受け止め、改革を進めていくことが求められる。
喜多川氏を想起させるジャニーズ事務所の社名も維持する。
東山氏は、社名変更に検討の余地はあるとしたが、「普通の企業なら考えられない対応」と批判するスポンサー企業もある。
被害者について東山氏は「法を超えた救済や補償が必要。時間を区切らず対応する」と述べ、幅広く救済に取り組むとした。言葉通りに実行されると信じたい。
ただ、具体的方法は示さなかった。被害者は自分たちの声を取り入れてほしいと要望している。被害者を取りこぼすことがないように対策を講じねばならない。
外部からコンプライアンス(法令順守)の専門家を招き、人権侵害防止のための体制を整備する。タレントの人権を尊重する事務所に生まれ変わるよう期待したい。
喜多川氏の性加害問題は、週刊文春が報じた記事を巡り、2003年に東京高裁が真実性を認める判決を出したが、主要メディアは放置してきた。
重大な人権侵害を芸能界の問題だとして直視しなかったことを、私たちメディアは反省しなければならない。
エンターテインメントに携わる全ての人の人権が守られるよう、社会全体で強く認識する必要性を、改めて肝に銘じたい。
