ビジネス界には「デファクト・スタンダード」という用語がある。公的な認証ではなく、企業間の競争によって市場の多数を占め、業界の標準として認められるようになった規格のことだ

▼少々ややこしい説明になったが、かつてのベータ対VHSの覇権争いが典型例といえる。1970~80年代にかけ、磁気テープに録画する家庭用ビデオデッキの規格を巡って両陣営が業界の盟主の座を争った

▼ベータ方式は高画質が売り物だった。一方、VHS方式は基本設計を比較的長めの2時間録画としたことや、販売力で上回ったことで次第に優位に立った。レンタルビデオ店では当初は両方の規格のソフトが並んでいたが、そのうちVHSだけになっていた。市場では、VHSに軍配が上がった

▼いま、世界の市場で激しい競争が起きているのが電気自動車(EV)用の充電器だ。日本の「CHAdeMO(チャデモ)」、米EV大手のテスラが開発した「NACS」、欧州の「コンボ」のほか、中国も独自の規格を打ち出す。まさに群雄割拠の様相だ

▼米国ではテスラのEV販売が急伸している。それに伴いNACSが主流になりつつある。日本勢の中でも、日産自動車などが米国でこの規格を採用する動きを見せている。日本国内でもテスラの充電器が増えてきた

▼消費者の立場からは規格が統一された方がありがたい。ただ、日本の自動車産業の盛衰にも関わる問題だ。そういえば、実家にあったベータのビデオテープはどうなっただろう。

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