強固な収入基盤に支えられた公共放送の業務拡大に懸念が残る。視聴者には費用負担などの丁寧な説明も欠かせない。
総務省の有識者会議は、NHKによる地上波番組のインターネット配信について、放送と並ぶ「本来業務」にすべきだとする報告書案をまとめた。
一般からの意見公募などを経て総務省が具体的な制度を検討し、早ければ来年の通常国会にも放送法改正案を提出する。
現行の放送法はNHK本来の業務をテレビの地上波放送、衛星放送、ラジオなどと規定している。
「NHKプラス」など既に展開中のネット配信は、放送を補完する「任意業務」の位置付けだ。
本来業務への格上げは、ネットやスマートフォンが普及し、情報の受け取り方など視聴環境が変化したことによる。
デジタル時代に対応し、公共放送としてネット上でも必要な情報を届ける責任を負うことになる。
報告書案では、テレビがなくスマホなどで視聴する人には費用負担を求めるとした。放送と同水準の情報を提供する以上、負担を公平にする必要があるとした。
受信料を支払っている人に追加負担はないが、受信料制度に不満を持つ人は多い。ネット配信の本来業務化には制度のあり方も根本から検討しなければならない。
NHKの事業は年約6700億円の受信料収入で支えられ、その額は近年微減で推移している。
テレビに代わる新たな収入源を確保したいのだろうが、料金を支払ってスマホで番組を見たい人がどれだけいるかは未知数だ。
これまでNHKは「理解増進情報」としてネット上で無料文字ニュースを展開してきた。一方、本社が加盟する日本新聞協会や民放連は、受信料収入と人員が豊富な立場で民間メディアと競争することは不公平だと指摘していた。
これに対し、有識者会議が災害時の緊急情報などを除き、無料文字ニュースなどを廃止すべきだとまとめたことは納得できる。
だが、NHKが際限なく業務を拡大し、民業を圧迫するのではないかとの警戒感は根強く残る。
報告書案を受け、新聞協会は「検討すべき課題が山積する中での取りまとめは遺憾」とするコメントを発表した。
5月には実施基準で認められていないのに、衛星放送番組をネット配信できる設備費用を予算計上していたことが判明した。
予算化は一部理事の稟議(りんぎ)で決まり、内部のチェック機能が働かなかった。前会長の退職金を10%減額したが、前のめりな姿勢の表れで企業統治が問われよう。
公共放送の役割の一つは、災害時の緊急情報など国民の生命安全に関わる情報を速やかに伝えることだ。そのために資するネット配信でなければならない。
