未曽有の原発事故の後、長期に及んだ県独自の検証がようやくまとまった。県は県民にしっかりと内容を説明し、周知していくことが欠かせない。

 花角英世知事は、東京電力福島第1原発事故を巡る県独自の「三つの検証」を取りまとめた総括報告書を公表した。

 三つの検証のテーマは「福島事故の原因」「福島事故が住民の健康と生活に及ぼした影響」「事故時の安全な避難方法」だ。

 有識者による各委員会がそれぞれ作業を担い、今年3月末までに四つの報告書を県に提出した。

 総括報告書には、これらの報告書の要約を載せ、「整理した課題などを確認した結果、矛盾および齟齬(そご)はなかった」と記した。全号機停止中の東電柏崎刈羽原発の再稼働の是非には触れていない。

 検証は、福島原発事故翌年の2012年にスタートした。3代にわたる知事の意向が反映された作業が終わり、再稼働問題は新たな局面に入ることになる。

 記者会見で花角知事は「県として柏崎刈羽原発に関する議論を進めていく」と述べた。

 これまでは三つの検証が終了するまでは「議論しない」との説明を繰り返してきたが、報告書を材料に、再稼働の是非の議論を始める考えを示した。

 県は、報告書の内容を理解できるよう丁寧に説明すべきだ。

 一方、県は避難に関する報告書で避難委員会が示した456の論点のうち、238点を対応が必要な「課題」とした上で、8割を対応済みとした。

 安定ヨウ素剤の緊急配布や、屋内退避者らへの支援など2割は「対応中」とし、未解決の課題が残る現状が浮き彫りになった。

 大雪時の避難路確保は重要課題だが、今回は福島原発事故を受けて課題を抽出したため触れられていない。こうした現状についても説明が大事だ。

 再稼働の是非は現時点ですぐに最終判断を下せる状況にはない。

 原子力規制委員会がテロ対策の不備を受けた追加検査や、原発事業者としての東電の「適格性」を再確認しているからだ。さらに県技術委員会による柏崎刈羽原発の安全対策の確認も継続中で、これらも判断材料になる。

 総括報告書は県が事務的にまとめたが、当初は有識者による県の検証総括委が手がける予定だった。しかし総括委は、運営方法などで県と対立し、事実上消滅した。

 委員長だった池内了(さとる)氏は報告書には「欠陥がある」とし、避難に伴う被ばくが健康に及ぼす影響など、複数の委員会が合同で議論すべき課題が残っているとする。

 そうした指摘に県がどう対応するかについても、県民は注目している。花角知事には、多様な声に広く耳を傾け、疑問に答えていく姿勢が求められる。