「ほら、アレだよ、アレ」「この前、アレしてさあ」。こんな会話が年を重ねるごとに増えてきたような。固有名詞や適当な表現がとっさに思い浮かばないと、こうなってしまう

▼その「アレ」が、流行語になった。冒頭のものとは違い、プロ野球阪神タイガースの18年ぶりのリーグ優勝のことだ。タイガースファンには待ちに待った、うれしい「アレ」である

▼先日の本紙おとなプラスに「阪神『アレ』経済効果872億円」との見出しが載った。記事を読めば優勝による経済効果と分かるが、算出した大学教授は試算を「阪神タイガース2023年『アレ』の経済効果」と称している。教授もきっと大の虎党に違いない

▼そもそもは岡田彰布監督がシーズン前から、目標である優勝を「アレ」と言い換えたのが始まりのようだ。ファンも験担ぎのように同じ呼び方をした

▼過去にタイガースは終盤戦で振るわず、優勝を逃したことが何度かある。だから「優勝」という言葉を口に出すと、実現しなくなるのではとのファン心理から、その言葉がタブーとなって「アレ」が広がった。リーグ制覇が近づくにつれて、スポーツニュースも「アレ」と報じるほどだった

▼古来、この国には、言ったことが実現してしまうという言霊信仰がある。受験生に「滑る」や「落ちる」といった言葉がタブーなのは、その一例だ。そう考えると虎党の「アレ」は、言霊信仰とは真逆をいくものだ。日本の習俗を変えてしまうほどのタイガースの快進撃だった。

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