世界的に食料の安定供給への懸念が高まっている。「農政の憲法」の見直しでは、食料自給率の上昇に本腰を入れ、食料安全保障の強化を進める必要がある。
農林水産省の有識者会議が、「食料・農業・農村基本法」の見直しに関する最終取りまとめを決定し、野村哲郎農相(当時)に答申した。政府は来年の通常国会での改正案提出を目指す。
食料危機時に生産転換や流通規制を指示する体制の検討のほか、食料安保の強化に向けた農産品の国内生産の拡大、価格転嫁の推進を提言した。
生産コストが上昇しても販売価格に反映することが難しい状況があるとして、農産物の生産から消費までの各段階で適正な取引を推進する仕組みの構築も要請した。
現行の基本法が施行された1999年から四半世紀がたち、世界的な人口増加や地球温暖化による気候変動での不作といった課題が山積している。
ウクライナ危機に伴う小麦価格の高騰、新型コロナウイルスの感染拡大による物流の停滞など想定外の事態も相次いだ。農水省は、こうした変化に対応する仕組みづくりのため、基本法の見直しに向けた議論を進めてきたとする。
食料安保の強化を目指すという方向性は当然だ。不測時に限らず、平時からの備えの重要性を明記したことももっともだ。
取りまとめでは、食料危機時の増産指示や備蓄放出、食料配給などが既存の仕組みで十分に対応できるかどうか検証も求めている。
規制や制限に関する新たな法制度が必要な場合は、その意義を国民に丁寧に説明する必要がある。
気がかりなのは、依然として日本の食料自給率が低いことだ。先進7カ国の中で最低水準だ。
2022年度はカロリーベースで前年度と同じ38%だった。政府がかつて設けた30年度の目標値である45%とはかけ離れている。
コメの消費が減る一方、小麦製品や肉類を多く消費するといった食習慣の変化で、下落傾向が続いた。輸入依存の低減が重要だ。
飼料にも目を向けなければならない。輸入飼料に頼ると自給率を押し下げるからだ。
ウクライナ危機で化学肥料の価格が高騰した。原料のほとんどを海外に頼る日本の農業はその直撃を受けた。
自給率に関して農水省は、肥料などの輸入状況を勘案した新指標の必要性についても検討中だ。
自給率を上昇させるには、高齢化が進む農業の担い手育成、耕作放棄地の活用など長年にわたる課題への対応が不可欠だ。
農業の現場では、資材や燃料の高騰分を農産品価格に転嫁することに苦慮している。
流通関係者や消費者などに生産現場の実態を理解してもらう取り組みも進めてもらいたい。
