しつけを口実に児童虐待が正当化されることがあってはならない。すべての子どもが大切にされる社会とするために、私たち一人一人が意識を変えたい。

 法制審議会は、親権者に必要な範囲で子どもを戒めることを認める「懲戒権」の規定を削除する民法改正要綱を、古川禎久法相に答申した。

 「懲らしめる」というイメージがある懲戒権を削除し、体罰の禁止を明文化した。心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動についても禁じ、子の人格を尊重する義務を盛り込んだ。

 私たちの生活の根本的なルールを定める民法に、虐待を防ぐ理念が記される意味は重い。

 政府は2022年度以降の法案提出を目指す。多くの子どもが不安定な状況に置かれている現状を踏まえ、一刻も早い改正に取り組んでもらいたい。

 懲戒権は1898年施行の明治民法から続く規定で、世話などの「監護」と「教育」の範囲内で親権者が子に行使できるとしている。「しつけ」と解釈されるのが一般的だ。

 だが親は子どもより上の立場で、厳しくしつけてもいいという考えのベースになっているとの見方もあった。1990年代に児童虐待が社会問題化すると、虐待が正当化される口実になるとも指摘された。

 法制審は2011年に成立した改正民法の検討段階でも懲戒権の削除を検討した。しかし「正当なしつけまでできなくなると誤解される」といった意見もあり見送られた。

 今回削除へ転換したのは、児童虐待を巡る状況が深刻化していることの表れだろう。

 厚生労働省が20年に行った体罰の実態調査では、しつけ名目で半年以内に体罰を与えたと答えた親は3人に1人に上った。

 虐待の疑いで警察が児童相談所へ通告した件数は、21年に10万8千人を超えている。

 18年に東京都で当時5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが亡くなった虐待死事件を機に翌年、体罰禁止を明文化した改正児童虐待防止法が成立したが、十分に浸透したと言える状況ではない。

 岡山市では今年1月、5歳だった西田真愛(まお)ちゃんが母親とその交際相手から執拗(しつよう)な虐待を受けて亡くなった。あまりに過酷な虐待に憤りを禁じ得ない。

 幼い子も一人の人間だ。

 その意識をしっかりと持つことが、体罰や虐待の抑止力になる。そうした認識を社会で広く醸成することが不可欠だ。

 答申にはまた、子どもの父親を決める「嫡出推定」の見直しも盛り込まれた。離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子となるが、出産前に母親が再婚していれば現夫の子とする。

 前夫の子となることを避けて母親が出生届を出さず、子が無戸籍になるのを避ける狙いだ。

 ただ家庭内暴力のために夫から逃げている場合は、離婚すること自体が難しいといった指摘もあり、課題は残る。

 子どもが健やかに成長できる社会を見据え、子の利益を最優先に、新たな制度を整えたい。