東京電力は緊張感を持ち放出作業を続けねばならない。政府は風評被害を起こさないため、今後も万全の対策を施す必要がある。
批判を続ける中国には、科学的根拠に基づいた安全性を粘り強く発信し、首脳間対話の道を探ってもらいたい。
東電福島第1原発の処理水放出開始から1カ月が経過した。初回分は8月24日~9月11日に行われ、約7800トンを放出した。
設備や運用でトラブルはなく、周辺の海水や魚の放射性物質トリチウムの濃度に異常はなかった。
国の基準の40分の1となる1リットル当たり1500ベクレル未満にして放出し、初回の濃度は200ベクレル程度だった。東電は今月末にも2回目の放出を始める予定だ。
福島県沖で取れた魚介類「常磐(じょうばん)もの」に価格低下は見られず、県水産課は「風評影響は現時点でないとみている」と分析している。
漁業者が反対する中で放出を始めた政府と東電は、丁寧にモニタリングを続け、正確な情報の発信に努めなくてはならない。風評被害を起こさないためにも、信頼を積み重ねることが大切だ。
中国が処理水を「核汚染水」と呼び、日本産水産物の輸入全面停止を続けている。北海道のホタテなど水産業者への打撃が拡大していることは見過ごせない。
中国の貿易統計では、日本からの輸入水産物の総額は8月に前年同月比で67・6%減り、7月より減少幅が拡大した。9月以降の影響も心配だ。
政府は、新たな販路開拓の支援策などを講じた。水産業者の実情に応じた対策になるよう検討や見直しを重ねてもらいたい。
この1カ月、中国は日本を非難する国際世論の形成を狙って外交攻勢をかけたが、同調する動きは広がらなかった。
放射性物質は規制基準を下回るまで浄化しているとする日本と、基準を満たせば放射性物質がないということではないとする中国との議論はかみ合わないままだ。
岸田文雄首相は20日の記者会見で、中国との対話を重視する考えを示し「あらゆるレベルで意思疎通を図りたい」と述べた。
習近平国家主席は23日、日中韓首脳会談について「適切な時期の開催を歓迎する」と韓国首相に話している。
中国と首脳間対話に向けた環境整備を進めていくことも肝心だ。日本政府は対話の機会を的確に捉えてもらいたい。
東電福島第1原発敷地内にたまり続ける放射性汚泥も懸念される。汚染水を多核種除去設備(ALPS)により浄化し処理水にする過程で生じる汚泥として残り、保管場所も数年後には満杯になる見通しだからだ。
保管ができなくなるとALPSの運転が滞る恐れがある。政府と東電は対策を急がねばならない。
