法の一方的な線引きを打ち破る判決だ。被害者全員の救済に向け、国には速やかに恒久的な救済システムをつくってもらいたい。

 2009年に施行された水俣病特別措置法の救済策の是非が問われた水俣病大阪訴訟の判決で、大阪地裁は「原告らの症状は水俣病以外に説明ができない」として128人全員を水俣病と認定した。

 国や熊本県、原因企業チッソに計3億5200万円、1人当たり275万円の損害賠償を命じた。

 これまでの国の救済範囲よりも対象を幅広く解釈し、救済されていない患者が現在もいることを明白にした画期的な判決だ。

 対象を限定した特措法や、厳しい患者認定基準の問題点を浮き彫りにし、救済政策の根本的な転換を迫ったと言える。国は重く受け止めねばならない。

 新潟地裁での新潟水俣病第5次訴訟をはじめ東京、熊本地裁でも同様の訴訟が係争中で、判決は今回が初めてとなる。

 第5次訴訟は来月、先に審理を終えた原告47人が結審し、来春に判決が見込まれる。大阪の判決がどう影響するか注目したい。

 一時金支給などの救済策を盛った特措法の対象は、熊本、鹿児島両県に挟まれた不知火海(八代海)か本県の阿賀野川でメチル水銀に汚染された魚を多く食べ、手足の末端感覚障害がある人だ。

 だが申請できるのは、対象地域に1968年(新潟は65年)までに1年以上住んだ人や、69年11月末(同66年11月末)以前に生まれた人などに原則限定された。

 特措法は「あたう(可能な)限りの救済」をうたったが、2年余りで申請を締め切った。期限後に水俣病の可能性に気付いた人が取り残されたと言わざるを得ない。

 今回の判決は、特措法の対象地域や年代から外れた人でも、メチル水銀に汚染された魚介類を多食すれば水俣病を発症する可能性があると指摘した。

 水銀暴露から長期間が過ぎた後に発症する遅発性水俣病の存在を認め、「4年を超えれば発症しない」とする国側主張を退けた。

 賠償請求権が消滅する20年の「除斥期間」について、起算点を水俣病と診断された時としたことは現実的な判断だろう。

 水俣病との自覚がない人の調査が求められる。特措法は住民健康調査を速やかに行うよう定めているが、実現していない。

 被害者の高齢化が進む中、潜在的な患者を救済するため国は大規模調査を急ぎ、新たな救済措置を議論する必要がある。

 判決を受け、原告は「うれしいのひと言に尽きる」と喜び、弁護団は「患者切り捨てを厳しく断罪した」と評価した。

 水俣病は公式確認から67年、新潟水俣病は58年が経過した。これ以上待てない状況にある被害者救済を急ぐことが求められる。