手元に1通の封筒がある。保健所から送られてきた。新型ウイルスのワクチン接種券が入っている。今回は、オミクロン株派生型「XBB・1・5」に対応した改良型ワクチンだという
▼通常、ワクチンの実用化には10年以上かかる。しかし振り返ってみると、新型ウイルスに関しては異例の速さで実現した。メッセンジャーRNAという遺伝物質を使った新たな技術が立役者となった。スピード開発には驚かされた
▼地球規模で感染爆発が起こる中、どれだけの人に接種されたのだろう。副作用があり得るなどワクチンは万能ではないにせよ、ウイルスと戦う上で人類共通の武器となった。外出が制限された頃を思えば、日常の生活がかなり戻ってきた
▼もし従来のワクチンのように実用化に時間がかかっていたなら、今もまだ私たちの暮らしは息苦しく、重い空気が垂れ込めていたはずだ。行きたい場所へ行けず、会いたい人とも会えなかった
▼ことしのノーベル生理学・医学賞に、ワクチン開発に道を開いた研究者が選ばれた。近年にノーベル賞の対象になった業績で、これほどまでに短期間に多くの人の暮らしに影響を与えたものはなかなかない。それほどに、新型ウイルスの感染爆発は人類の大きな危機だった
▼もう一度、手元の封筒を見つめる。政府は重症化リスクがある人には積極的な接種を呼びかけている。自分は当てはまらないようだが、今回はどうするか。ワクチンのスピード開発に敬意を表しながら、じっくり考えたい。