ウイルス禍で仕事を失ったり感染の不安を抱えたりする人が増える中、私たち一人一人がしっかり周囲に目配りしたい。
警察庁の自殺統計(速報値)に基づく厚生労働省の発表によると、2021年の県内の自殺者数は前年から19人増え467人に上った。
気掛かりなのは、人口10万人当たりの自殺者数(自殺死亡率)が21・2人で全国ワースト3位となったことだ。20年より三つ悪化した。
本県の自殺死亡率は全国的にも高水準で推移しており、憂うべき傾向だ。
自殺の実態を正確に把握することが、対策推進の最大の原動力になるのは間違いない。関係機関は連携し、原因分析をしっかり行ってほしい。
県内の内訳は女性が176人(20年比23人増)、男性は291人(同4人減)と女性の増加が顕著だ。年齢別では、19歳以下の若年層が前年より8人増の17人に上った。
全国的に見ても、女性の人数は7015人で、19年(6091人)から大きく増えた20年(7026人)と同水準となり、高止まりの傾向がみられる。
若年層でも、男性より女性の増加が目立った。19歳以下では男性が49人減ったのに対し女性は10人増えて294人。20代では男性が1人増だったが、女性は実に101人増の846人となった。
女性の自殺急増は、21年の自殺対策白書でも指摘されている。背景には、非正規労働者が多い女性の雇用環境などもあるとみられる。
ウイルス禍により、失業や休業に追い込まれ、生活困窮に陥る人が増加しているのは明らかだ。今後も注意深く見守る必要がある。
感染拡大で仕事がなくなり社会から孤立したり、生きる希望をなくしたりする人を出さないように、国は昨年初めて重点計画を決めた孤独・孤立対策をさらに進めてもらいたい。
感染予防のために地域で交流する場が休止され、自宅にこもりがちな高齢者もいる。
外出自粛で在宅時間が増えたことから、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待も深刻化している。
世界保健機関(WHO)の統計によると、日本は先進7カ国の中で自殺死亡率が最も高い。自殺には生活苦や健康問題、人間関係など多くの要因が影響する。一つの支援で解決できるケースは少ないだろう。
社会に孤独が広がる中で、自殺の要因となるさまざまな問題に対応し、地域の見守り・交流の場づくりや相談支援に当たる人材育成を粘り強く進めていく必要がある。
女性や若者の増加が注目されるが、中高年男性の自殺も依然として多い。そうした層にもきちんと目を向けたい。
自ら命を絶つ人をこれ以上増やさないために、周囲にいる私たちも命を守るゲートキーパー(門番)として、悩みや不安に寄り添う姿勢が欠かせない。
