手にした虫眼鏡で骨董(こっとう)品をしげしげと眺め「いい仕事してますねぇ」。テレビの鑑定番組でよく見たシーンだ。対象を細部まで見極める際に使われるのが虫眼鏡。拡大鏡やルーペとも呼ばれる。占い師や探偵の小道具としてもおなじみだ
▼1枚の凸レンズ越しに見つめると、拡大されて見える。レンズの歴史は古く、紀元前の遺跡からはレンズ形に磨いた水晶が発見された。当時は装飾用だったらしいが、2世紀ごろには拡大鏡としての用途が知られていた。光学製品メーカーのケンコー・トキナーのウェブサイトが紹介している
▼虫眼鏡を使ったつもりで観察してみるのだが、よく見えないものがある。発足から2年になった岸田政権の理念や根本姿勢である。例えば安倍政権が目標として掲げた憲法改正のように、何をやりたいのかがはっきりしない
▼首相は核軍縮がライフワークというが、具体的な取り組みは見えない。安倍政権であれば大きな議論になっていただろう反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有もあっさりと決めた
▼自民党内リベラル派の系譜を継ぐとされる。しかし、同党の衆院議員が法務局から人権侵犯と認定されても党内の役職に就けた。保守層への配慮らしいが、政権の人権感覚が問われる
▼理念よりも現実的な課題への対処を優先していると言えば聞こえはいい。とはいえ、国の未来を左右する政策を理念なしに決めていく姿勢は、いかにも危うい。虫眼鏡をのぞき込んでも「いい仕事してる」とは言いがたいのだ。