再出発への一歩を踏み出してからも、依然厳しい目が向けられている。内向きな姿勢では失われた信頼は回復できない。
ジャニーズ事務所創業者で4年前に死去したジャニー喜多川元社長の性加害問題で、事務所の東山紀之社長らが会見し、社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更すると発表した。
9月の会見で、喜多川氏の名を冠した事務所名は存続させるとしていた方針を転換した。
前代未聞の人権侵害を謝罪しながら社名維持にこだわる経営判断に批判が高まり、所属タレントの起用を取り止める企業やテレビ局が相次いだためだ。
今回の会見で東山氏は「社名を残すのは内向きと言われて当然だった」と述べた。性被害の深刻さへの認識が甘く、人権意識を欠いていたと言わざるを得ない。
「ジャニーズ」の名を冠した所属グループも名称を変更する。喜多川氏と完全に決別する決意を示したと言える。
事務所の改革について、あるスポンサー企業は「まだ良くなったかどうかを判断する状況にない。どう変わっていくか注視したい」としている。
性加害問題を長年放置していたマスコミや関係企業は、厳しく動向を見届けねばならない。
会見では被害者救済委員会に325人が補償を求めていることが明らかになった。補償はスマイルアップが担当し、対応を終えた後に廃業する。11月に補償を始める予定だという。
被害者からは具体的な内容が示されず残念だとの声が出ていた。補償の進ちょく状況を明らかにするなど開かれた対応で、信頼を得ていくことが必要だ。
タレントのマネジメントや育成は新会社が担い、希望者と個別にエージェント契約を結ぶ。育成からプロデュースまでを芸能事務所が一貫して担う専属契約からの転換を図る。
近年はタレント側に労働者としての権利意識が高まり、専属契約を巡るトラブルも目立っている。新会社の運営を注目したい。
今回の会見を巡っては、特定の記者らを指名しないための「NGリスト」の存在が判明した。会見の運営会社は、事務所側は一切関与していないとしたが、事務所は事前にNGリストを見せられていたことを認めている。
公正な会見とするには、事務所側は運営会社にリストの破棄を求めるべきだった。社会に広く説明する会見の正当性を疑われては、信頼の取り戻しようがない。
芸能界で起きるハラスメントに対処する第三者的な組織の設置を求める意見もある。
アイドルに憧れ、芸能界を目指す若者たちを守るためにも、人権が尊重される仕組みを社会全体で考えていきたい。
