人権が守られ、自由を享受できる社会がどれほど貴重で、尊いものなのか。弾圧に屈せず、闘い続ける人生に触れ、その認識を改めて強くする。

 人権抑圧は世界的な問題だ。これを機に、人種や性、信仰、国籍などにかかわらず、あらゆる人々の人権が配慮される社会に変わっていくことを切に願いたい。

 ノルウェーのノーベル賞委員会は、今年のノーベル平和賞を、イランの51歳の女性人権活動家、ナルゲス・モハンマディさんに授与することを決めた。

 委員会は「イランにおける女性の抑圧との闘いと、全ての人々のための人権や自由を促進する闘い」を評価し、授賞理由とした。

 厳格なイスラム体制下のイランで、女性の人権状況改善を希求する活動を長年続けてきた。当局に13回拘束され、計31年の禁錮刑を宣告されたという。現在もテヘランの刑務所に収監中だ。

 獄中からも声を上げ続け、米紙のインタビューには、抑圧されるほど「民主主義と自由を実現するまで闘う決意がさらに固まる」と語っている。

 計り知れない犠牲を払いながらも信念を貫く。その意志の強さに敬意を表したい。

 イランは1979年の革命以降、イスラム教に厳格な宗教指導者が国家を統治する体制にある。

 表現や言論の自由は制限され、特に女性には、国籍や宗教を問わず、公共の場で髪を隠すヘジャブ(スカーフ)の着用を法的に義務づけている。女性の自由を抑圧する象徴と言える。

 モハンマディさんは女性の体を隠すように強いる規則に抵抗し、女性に対する組織的な差別や抑圧と闘ってきた。死刑制度への反対も訴えている。

 昨年9月には、ヘジャブのかぶり方が不適切だとして当局に拘束された22歳の女性が死亡した。

 これに対する抗議デモが各地で起き、モハンマディさんは関係者が投稿しているとみられる交流サイト(SNS)を通じて積極的に支持を表明した。

 デモの広がりは、差別的で抑圧的な政策に多くの人が抵抗していることを表すものだろう。

 当局が抗議デモ参加者に対して死刑を相次いで執行し、死刑を弾圧の手段としていることを見過ごすことはできない。

 イラン当局は、国民に対して真摯(しんし)に向き合うべき時にある。

 モハンマディさんへの授賞にイラン政府の反発は必至だ。国際社会は対応を注視する必要がある。

 今回の平和賞は、イランに限らず、女性の人権が抑圧される国々で正当な権利を求めて地道に活動する人々を勇気づけるはずだ。

 人権が守られる社会は、暴力を排して世界の平和を実現する前提となる。そのことを改めて胸に刻まなくてはならない。