戦闘の激化で、戦火が拡大する事態は避けなければならない。早期停戦へ自制を求めたい。

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに奇襲攻撃し、3千発以上のロケット弾を発射した。

 ハマス戦闘員がイスラエル領内から民間人や兵士を連行し、100人超を人質として拘束した。

 ドイツ人らが拉致され、米国人やタイ人が死亡するなど、多くの外国人が巻き込まれたもようだ。

 イスラエルは報復としてガザを空爆した。イスラエル側の死者は少なくとも900人になり、パレスチナ側と合わせて死者は1600人を超えている。

 武装勢力の攻撃でイスラエル側にこれほど大きな人的被害が出ることは極めて異例だ。イスラエルのネタニヤフ首相は「敵はかつてない代償を払う」と強調した。

 昨年末に発足したネタニヤフ政権には、対パレスチナ強硬派の極右政党が参加し、軍は武装勢力の掃討を強化していた。今後、戦闘の激化も予想される。

 ハマスは、イスラエル軍がガザ市民を無警告で攻撃するたびに、人質を殺害すると警告している。

 人質を「人間の盾」とすることは断じて許されない。ハマスは今すぐ、人質を解放するべきだ。

 イスラエルは、ガザの「完全封鎖」を命じ、電力や食料、燃料を遮断すると宣言した。

 ガザでは、ハマスが制圧した2007年以来、イスラエルが境界を封鎖し、経済危機が続く。

 ロシアによるウクライナ侵攻で多くの国や国際組織の支援予算がウクライナに割かれ、ガザなどへの人道支援が手薄になっている。

 戦闘によってパレスチナの人々がさらに窮地に追い込まれていく懸念がある。

 国連のグテレス事務総長が、「完全封鎖」宣言に「深く苦悩している」と述べるのはそのためだ。

 イスラエルが近年、敵国イランへの警戒感を共有するアラブ諸国と接近する一方、「アラブの大義」であるパレスチナ問題の解決は棚上げされていた。

 さらに「アラブの盟主」であるサウジアラビアとイスラエルが急接近したことで、パレスチナは最大の後ろ盾を失い、置き去りにされる恐れがある。

 ハマスが攻撃に踏み切った背景にある情勢は無視できない。

 しかし、ハマスによるテロ行為や民間人の殺害、拉致は正当化できない行為だ。

 イランは奇襲に関与したとの指摘もある。最高指導者のハメネイ師は関与を否定した上で、ハマスの攻撃を称賛した。

 隣国レバノンへの戦火拡大も懸念され、このままでは中東の地域全体が流動化しかねない。

 最悪の事態を防ぐため、関係諸国は対立をあおらず、停戦を働きかけねばならない。