国は一方的に手続きを進めるのではなく、自治を重んじてもらいたい。地方の民意と向き合い、対話を通じた解決策を探していくことが改めて求められる。

 沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、斉藤鉄夫国土交通相は軟弱地盤改良工事の設計変更を玉城デニー知事に代わって承認する「代執行」に向け、福岡高裁那覇支部に提訴した。

 9月の最高裁判決で承認義務を負った知事が対応しなかったため、国交相は承認の勧告や、より強い指示を出したが、知事がいずれも「承認は困難」と表明したことから、提訴に踏み切った。

 知事が承認困難とした背景には、民意の重みがある。

 2019年の県民投票で移設予定地の埋め立てに7割が反対したことや、知事自身が移設反対を公約に昨年再選されたからだ。

 複数の県幹部が「司法の最終判断には従うべきだ」と進言した一方で、知事を支える地方議員や市民団体から「承認すべきではない」との意見が続出した。

 自治体のトップが、最高裁判決に従わず「違法状態」に置かれるという異例の事態の中、法と民意のはざまで、苦渋の決断をしたことがうかがえる。

 しかし国はおもんぱかることなく、最高裁判決に沿って、知事の表明からわずか半日後に提訴するなど、移設実現へ躍起だ。

 訴訟の第1回口頭弁論は30日に開かれる。国は即日結審を求め、審理を終えた後、知事に承認を命令する判決を速やかに出すべきだとも主張している。

 国の強硬姿勢は、民意との溝をさらに深める懸念がある。

 高裁支部が国の主張を認めれば知事に期限を定めて承認を命令し、知事が従わなかった場合は国交相が代わりに承認する。防衛省は工事に着手できることになる。

 国が代執行訴訟を起こすのは、地方に事務を委ねる機関委任事務を廃止し、国と地方の関係を対等とする00年の地方分権一括法施行後、2例目だ。

 1回目は和解が成立して代執行は見送られており、今回代執行に至れば、初のケースになる。

 代執行は、地方自治を軽視することにならないか、国は慎重に考えてもらいたい。

 代執行の前提となる最高裁判決には、行政法の研究者ら100人超が「不合理極まりない」とする声明を公表した。知事の設計変更不承認を違法か合法か判断せず、「地方自治の保障の観点から有害だ」と批判した。

 この分野の研究者の4分の1程度が加わったとみられ、「政府は手続きを止め、県と改めて話し合うべきだ」とも訴えている。

 政府はこうした声に耳を傾け、知事が求めている基地問題での対話の場を設けるべきだ。沖縄の民意を踏みにじってはならない。