高額献金の被害をなくし、救済を前進させる一歩となるか。裁判所の判断を注視したい。

 政府は12日、高額献金被害の訴えが相次ぐ世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令請求を決定したと表明した。13日にも東京地裁へ請求する。

 昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に問題化した旧統一教会による高額献金被害は、岸田文雄首相が解散命令請求を見据えた質問権行使による調査を決断してから1年で、政府の対応が大きな節目を迎えた。

 この間、明らかになった高額献金被害の実態は深刻で、世代をまたいで被害者を苦しめている。

 解散命令は被害者が切望しているものであり、政府の判断に理解を示す人は多いはずだ。

 文化庁は今夏まで7回にわたって質問権を行使し、旧統一教会の法的責任を認めた民事判決や、韓国にある教団本部への送金など500項目以上で報告を求めた。

 献金被害者170人以上の証言を集め、約1550人に対し、損害賠償額や解決金など総額204億円の被害があったとした。

 質問権行使や被害者の証言から不当な献金集めを「教団の業務、活動として行った」とし、解散命令の要件を満たすと判断した。

 不法行為の「組織性、悪質性、継続性」を立証するため、文化庁が十分な段取りを踏んできたと言えるだろう。

 12日に開かれた宗教法人審議会も、解散命令請求を全会一致で「相当」と了承した。

 注目されるのは、過去の解散命令が刑事責任を問われたのに対し、旧統一教会は幹部が刑事責任を問われた事件がなく、民法の不法行為が問われる点だ。

 憲法で保障された信教の自由に基づき、宗教法人法は解散命令の厳格な要件を定めている。

 刑事判決の後ろ支えがない中で、教団の行為が解散命令の要件に該当するかどうか、地裁は難しい判断が迫られる。

 旧統一教会側は、民法の不法行為は法令違反に当たらず、質問権の行使自体が違法だとして争う構えを見せており、審理は長期化が予想される。

 被害者側は審理が続く間に教団が財産を別の団体に移すなどして、被害が救済されなくなると懸念している。教団資金の流出を防ぐ対策も検討が必要だろう。

 教団については、選挙応援などを通じた政治家との関わりが明らかになった。そのことが被害を拡大させた疑念は今も払拭されておらず、検証が欠かせない。

 高額献金問題を巡る対応は、支持率低迷に悩む岸田政権の思惑に振り回されてきた感がある。

 解散命令請求は宗教法人の存立に関わるもので、判断は極めて重い。時の政権の都合で乱用することは許されない。