あまりに身勝手な、ウクライナ主権の侵害だ。ロシアに対し米欧や日本が非難の声を上げたのは当然といえる。

 力による現状変更を狙ったとしか思えない国際秩序への重大な挑戦であり、決して許されることではない。侵攻阻止に向け国際社会が緊密に結束して対抗していくことが不可欠だ。

 ロシアのプーチン大統領が21日、親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認する大統領令に署名した。

 さらに国防省に対し、2地域に軍を派遣して平和維持に当たるよう指示した。

 「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」は2014年のウクライナ政変によって親ロシア政権が親欧米政権に代わった際、ロシアが全面支援する親ロ派武装勢力が一方的に樹立した。

 だが、あくまでも親ロ派の実効支配であり、他国の領土に対し勝手に独立のお墨付きを与え派兵するのは無理筋だ。

 国連のグテレス事務総長は独立承認についてウクライナの主権侵害、国連憲章違反として懸念を示した。プーチン氏は今回の判断や指示を撤回すべきだ。

 あきれるのは、プーチン氏の主張だ。

 テレビ演説では、米国主導の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)にウクライナが加盟すれば「ロシアへの直接の脅威となる」と強調。

 NATOの東方不拡大を条約で確約するよう求めたロシア提案を「無視した」と米欧を厳しく批判した。

 ウクライナがNATOに加わるかどうかは、ウクライナとNATO加盟国の問題だ。言い分が受け入れられないからと、領土を分割しようとするやり方は横暴過ぎる。

 ウクライナ政府軍と親ロ派の間の紛争解決に向けた「ミンスク合意」の崩壊につながる可能性もある。

 国際社会の安定に責任を負うべき国連安全保障理事会常任理事国の指導者として、ふさわしい態度とはいえない。

 憂慮するのは、親ロ派支配地域の独立承認がウクライナ侵攻の口実にされるのではないかということだ。

 プーチン氏は、独立を承認した2地域のトップと友好相互援助条約に調印した。条約は、ロシアが「共和国」の要請で軍事基地設置可能と規定する。

 2地域にはロシアのパスポートを受給した住民も多く、プーチン氏は自国民保護を理由に派兵する考えとみられる。

 14年政変でウクライナ南部クリミア半島を強制編入した時、ロシアは偽装工作で侵攻正当化の口実をつくった。こうした手法はロシアの常とう手段だ。今後を注視する必要がある。

 情勢は緊迫の度を増しているが、何とかウクライナへの侵攻を阻止したい。米ロ首脳会談が模索されるなど外交努力が続けられている。関係各国はあらゆる手だてを講じてほしい。