企業や個人の決済を支える基盤が支障を来せば、金融システム全般への信頼が揺らぐ。影響の大きさを深刻に受け止め、実効性ある再発防止策を講じてほしい。
銀行業界でつくる全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)の全国銀行データ通信システム(全銀システム)でトラブルがあり、全国の金融機関で10、11日の2日間、送金障害が起きた。
窓口やATM、インターネットバンキングのいずれでも振り込みができなくなり、三菱UFJ銀行など10の金融機関に波及した。
他行からの振り込みも受けられない状態になった。処理の遅れは約506万件に上った。
児童手当の入金に遅れが生じる自治体があったほか、生命保険や損害保険会社では保険金の支払いが遅れた。法人間の取引や個人への給与振り込みが滞るケースもあったとみられる。
メガバンクや地方銀行など千を超す金融機関が接続する決済システムでのトラブルは広範囲に影響を及ぼす。関係者は、銀行利用者に影響が出た異例の事態を重く受け止めてもらいたい。
エラーは全銀システムと金融機関をつなぐ機器「中継コンピューター」で起きた。
7~9日の3連休に中継コンピューターを更新したことに伴って機器の基本ソフト(OS)を変更したが、プログラムの設定ミスで部分的な容量不足が生じた。それがトラブルを引き起こした。
稼働前に本番に近い環境で十分な試験ができていたか、しっかり検証する必要があるだろう。
全銀システムは1973年に稼働してから50年間、大規模な障害を起こしたことがない「優等生」だった。そうした実績が、作業や試験で油断や慢心を招かなかったかどうかも気になる。
全銀システムが採用している「メインフレーム」と呼ばれる大型コンピューターは、提供する富士通が2030年度に販売を終了することが決まっている。
熟練技術者の確保が難しくなっていることも試験の精度に影響している可能性があるという。運用に不可欠な技術をどう継承するか、考えなくてはならない。
復旧作業ではプログラム修正がうまくいかず、時間を要した。復旧の手順も確認するべきだ。
機器の更新作業は29年まで24回に分けて進められる。トラブルが起きた10金融機関を含む今回の作業はその第1陣だった。
来年1月に予定される第2陣以降は万全の対応を求めたい。
金融庁は全銀ネットに資金決済法に基づく報告徴求命令を出し、詳しい原因の分析と再発防止策の報告を要求している。
全銀ネットはシステム構築に関わったNTTデータとも連携し、同じトラブルを二度と起こさぬよう対策を急いでもらいたい。
