物価高による国民生活への負担は一段と重くなっている。中東で武力衝突が起きるなど国際情勢は不安定さを増している。

 与野党は山積する国内外の課題に議論を尽くし、国民が安心できる方向性を示さねばならない。

 臨時国会が20日に召集され、岸田文雄首相は23日、所信表明演説を行った。

 首相は「経済、経済、経済」と連呼して経済対策に最も重点を置くとし「国民への還元」と「供給力の強化」を両輪とする総合経済対策の取りまとめを宣言した。

 税収増の一部を国民に還元して物価高による負担を緩和する。持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済に向け、3年程度を変革期間として供給力強化に取り組む。

 国民への還元では20日に、所得税減税を含めた還元策の検討を与党に指示した。

 日本世論調査会が先月まとめた調査では、2021年10月の岸田政権発足前と比べて家計の状況が「苦しくなった」が「やや」を含め6割近くに上った。首相が経済対策に力を注ぐことは当然だ。

 だが所得税減税は法改正を伴い国民が減税効果を実感するのは来春以降になる。即効性に乏しい。

 防衛力強化のための防衛増税や異次元の少子化対策が控える中での減税は、政策のちぐはぐ感が否めず、国民の政治不信を強めかねないと言える。

 借金である国債に頼る赤字財政下で、財政規律との整合性も問われることになる。

 与野党対決になった22日投開票の衆参2補欠選挙は自民党の1勝1敗だった。両選挙区は元々自民の議席だっただけに、岸田政権への不満がにじむ結果だ。

 投開票日直前での所得税減税の検討指示も、選挙目当てと有権者に見透かされたのだろう。

 共同通信が実施した今月の世論調査で、岸田内閣の支持率は過去最低を記録した。政権浮揚を図るための減税指示なら、あまりにもその場しのぎだ。

 今臨時国会は第2次岸田再改造内閣が先月発足してから初の論戦の場になる。衆院長崎4区補選の自民候補の集会で、自衛隊の政治利用と取られかねない発言をした木原稔防衛相をはじめ、新閣僚の答弁も注視したい。

 解散命令を請求した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題では、被害者救済を巡る教団財産の保全なども焦点になる。

 24日からの各党代表質問や予算委員会では、腰を据えた冷静な論議が求められる。

 首相は先の通常国会終盤で、衆院解散をちらつかせ批判を浴びた。税の在り方など国の根幹に関わるテーマを扱う臨時国会では、政局を絡ませず、首相自身が中身のある答弁をし、議論を深めていく姿勢が欠かせない。