公共交通を補う仕組みになり得るのか。地域交通の担い手不足が深刻な本県としても気になる議論だ。何よりも安全性の確保が最優先されなければならない。

 一般ドライバーが自家用車を使って有償で客を運ぶ「ライドシェア」について、岸田文雄首相が臨時国会の所信表明演説で、導入を検討することを明らかにした。

 ライドシェアは米国や中国、東南アジアで広がっており、スマートフォンアプリを通じてドライバーと乗客を結ぶのが一般的だ。

 日本ではこうしたマイカーでの輸送は「白タク行為」として原則禁止されているが、過疎地や観光地で顕在化するタクシー運転手不足の対策として浮上してきた。

 タクシー運転手の減少は、県内でも新型コロナウイルス禍により加速した。

 県ハイヤー・タクシー協会によると、法人タクシーの運転者証交付者は3月時点で2982人と、4年前に比べ23%(906人)減っている。

 大規模イベントの開催時は利用者が集中し、思うように配車予約できないと困惑する声もある。

 人手不足という背景があるとはいえ、命を運ぶ重さを十分に考える必要がある。

 全国ハイヤー・タクシー連合会は、事故時の責任があいまいになる危うさを指摘している。運転手の健康チェックや車両整備の責任体制の在り方からも慎重論がある。拙速な解禁は避けるべきだ。

 ライドシェアを巡る議論がデジタル行財政改革会議の中で交わされることにも疑問がある。

 デジタルを最大限活用した社会改革を掲げ、交通や介護分野で取り組みを先行させるという。

 マイナンバーカードでのデジタル行政の失敗を取り繕うために、前のめりになっていないか。公共交通を巡る根本的な議論がなされるべきだ。

 ローカル鉄道の経営苦境が各地から聞こえ、バス運転手も足りていない。交通手段に恵まれた首都圏と違い、地方はマイカーの運転がままならないと、生活への支障が大きい。

 国は公共交通が不便な地域などに限り、自治体や民間非営利団体(NPO)などが運営主体となる「自家用有償旅客運送」を例外的に認めている。

 県内では、村上市山北地区で走りだしたボランティアタクシーがこの制度を活用し、公共交通の空白域をカバーするための取り組みを始めた。

 地方の公共交通網は地域内で支え合わねば立ち行かないほどほころび始めているのが現実だ。

 ライドシェアの導入が公共交通の安易な撤退を認める流れになってはならない。

 公共交通網の維持を前提に、住民が利便性を感じられる仕組みを考えていくことが大切だ。