所得税減税は、物価高対策として首相が自ら指示したはずだが、国会の論戦ではその具体像が見えてこない。首相には目指す税体系について、自らの考えを明確に示してもらいたい。
臨時国会の代表質問は、衆院の論戦が25日に終わった。参院では26日までとなる。
議論の中心となっているのは、岸田文雄首相が所信表明演説で言及した物価高を乗り越えるための「国民への還元」だ。
演説で首相は「税収増分の一部を還元し、国民負担を緩和する」と述べたが、減税か給付か示さず、与党に検討を指示した「所得税減税」にも触れなかった。
代表質問ではこの点に質問が集中し、首相は「所得税減税を含め、早急に検討を進める」、「デフレ脱却を確実にするための措置として、可処分所得を一時的に下支えする」などと答えたが、「還元」の手法は明かさなかった。
気になるのは、代表質問の答弁より踏み込んだ内容が、国会の外から聞こえてきたことだ。
首相は24日に出演したテレビ番組で、2年分の所得税の増収分を減税する考えを示し、「所得税の増収分をお返しするのが最も分かりやすい還元だ」と述べた。
答弁より具体的だが、国会の議場でこそ、国民に届く言葉で丁寧に答えるべきではないか。
24日には、所得税などを1人当たり年4万円減税し、低所得や高齢の非課税世帯に7万円を給付する案が、政府内で浮上していることも分かった。
新型コロナウイルスの流行後、2022年度までの2年間に増えた所得税収など3兆円分を還元する方向で検討されている。
しかし減税を実感できるようになるのは来年夏ごろと時間がかかり、貯蓄に回る可能性があるなど、政策効果を疑問視する声は与党内にもある。
財政再建は遠のき、ばらまき批判が出ても仕方がない。
所得税は、防衛力強化の財源として政府が検討する防衛増税にも含まれ、整合性が問われる。
税収の上振れ分は、防衛費や異次元の少子化対策の財源に充てるべきだとも指摘される。
25日の代表質問で、自民党の世耕弘成参院幹事長は「還元という言葉が分かりにくかった。自分で決断せず、検討を丸投げしたように国民に映った」とし、首相の姿勢を批判した。
減税検討を指示しながら、具体的に答弁せず、自ら説明しようとしない首相に、与党内の不満がくすぶっていることの表れだろう。
政府は11月2日の閣議決定を目指す経済対策に、減税方針を明記する考えだ。
国民全体に関わる税の在り方には国会での熟議が欠かせない。首相には活発な議論につながる踏み込んだ答弁を求めたい。
