臨時国会が始まった途端に、政務三役が相次ぎ辞任に追い込まれるとはあきれる事態だ。何を持って「適材適所」としていたのか、首相の判断が疑われる。
自民党衆院議員の柿沢未途法務副大臣が31日、東京都江東区の木村弥生区長側の公選法違反事件に関与したとして辞表を提出し、受理された。
木村氏側は4月の区長選中、有料のインターネット広告をユーチューブに掲載したとされている。江東区を地盤とする柿沢氏は木村氏を支援し、ネット広告の利用を提案していたという。
公選法は候補者名を挙げて有料のネット広告を出すことを禁じており、柿沢氏が選挙違反を主導したことになる。
法秩序の維持を担う法務省の副大臣が、選挙の不正に絡む問題で辞任するのは深刻だ。
柿沢氏は違法性を認識していなかったという。その認識がない時点で法務副大臣には適さない。
岸田文雄首相は、第2次再改造内閣発足当初、副大臣と政務官に女性を一人も起用せず、人事は「適材適所の考え方に基づいて行った」と説明していた。
だが内閣改造後初の臨時国会の開会直後に、山田太郎文部科学政務官が女性問題で辞任した。
それから1週間もたたずに柿沢氏が辞しては、首相が言う「適材適所」の妥当性に疑問が湧く。
内閣改造前の8月にも、洋上風力発電事業を巡る汚職事件で秋本真利外務政務官が辞任した。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などで閣僚のドミノ辞任が起きた昨年秋の臨時国会が思い出される。
物価高に伴う経済支援や少子化対策などの審議が急がれる時に、不祥事で議論を停滞させる状況を招いてはならない。
31日の参院予算委員会で首相は「任命権者としての責任を重く受け止めている」と述べた。国民の信頼を大きく損なったことへの危機感を強く持つべきだ。
柿沢氏はこの日、記者団の質問に答えず、交流サイト(SNS)に謝罪の投稿をしただけだった。
理解できないのは、国会が柿沢氏への説明を求めていたのに、その場が奪われたことだ。
与野党は予算委開会前の理事会で柿沢氏の出席に合意したが、法務省官僚が独断で出席させない判断をしたという。国会の権威をおとしめる越権行為だ。
さらに政府は、柿沢氏の出席要求が出ていたにもかかわらず、午後の予算委審議が始まる前に持ち回り閣議で辞表を受理した。
首相は予算委で、柿沢氏について「必要に応じて政治家としての説明責任を果たすべきだ」と述べながら、辞表を受理し、質疑に応じる機会を奪うのは矛盾する。
都合の悪いことを隠していては、信頼回復は図れない。
