金融政策の修正はこの1年間で3度目だ。金利を無理に抑え込む金融緩和は限界に近い。景気を冷やさぬよう注意しつつ、日銀は10年続く大規模緩和を終わらせる出口戦略を描かねばならない。
日銀は金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の再修正を決めた。1%としていた長期金利の上限を「1%をめど」とし、一定程度超えることを容認する。
本来は市場においてあるべき水準が決まる金利について、日銀が強制的に1%以下に抑え込むことによる副作用を防ぐため、7月に続いて金利政策を修正した。
急速に上昇して歴史的な高水準にある米国の長期金利を背景に、円安を是正したい日本政府の思惑も絡み、わずか3カ月で上限見直しを迫られた格好だ。
植田和男総裁は会合後の記者会見で、米国の金利に関し「上昇が予想以上だった」と見通しの甘さを認めた。金融市場を巡る不確実性が高いことの表れだろう。
この間、日本の長期金利は大幅に上昇した。会合直前には一時0・885%と10年3カ月ぶりの高水準を付け、1%に接近した。
1%に抑え込むため、日銀が無制限に国債を買い入れる「指し値オペ」を実施すると、市場がゆがみ、財政規律がさらに緩む。
日本の長期金利が上昇して日米の金利差が縮小すれば、運用先として相対的に円の魅力が増し、円高に振れる可能性がある。
政府内には日銀の低金利政策が円安進行の要因になっているとの指摘がある。植田氏は為替を含めた金融市場の変動を抑えることも狙いだと説明した。
にもかかわらず、会合後の外国為替市場で円相場は対ドルで大幅に下落、一時は33年ぶりの安値に迫った。緩和策が微修正にとどまったと市場に受け止められた。
再修正では長期金利の上限を「めど」とし、具体的な範囲を示さなかった。植田氏は先行きの金利水準を「1%を大幅に上回るとはみていない」と述べた。
政策の柔軟性が高まったといえ、上限を有名無実化したように映る。金利上昇をどこまで容認するかの難しい判断が求められる。
一方、長期金利の上昇は固定型住宅ローンや、企業向け融資の金利上昇につながる。個人消費や設備投資が減り、景気に悪影響が出ないかと懸念がある。
景気の下支えに向けた政府の経済対策と「整合性がつかない」という声も日銀内に出ていた。
会合は、短期の政策金利をマイナス0・1%とする大規模緩和の大枠を維持した。植田氏は「粘り強く金融緩和を継続する」と述べ、出口戦略は曖昧にした。
米国の政策金利の動向が気がかりだ。追加利上げなら日米の金利差は拡大すると予想される。
日銀は国内外の金融情勢を注意深く見極めなければならない。
