なぜ減税なのか。物価高の緩和策につながるのか。喫緊の課題を巡る財源はどうするのか。首相の説明は納得するには程遠く、有効な対策となるのか疑問だ。
政府は2日、臨時閣議で経済対策を決定した。
物価高の家計負担を緩和する所得税と住民税の減税、非課税の低所得世帯への給付金を含め、総額17兆円台前半となる。
開会中の臨時国会で、対策の裏付けとなる2023年度補正予算案の早期成立を目指す。
目玉の減税は1人当たり所得税3万円、住民税1万円の計4万円だ。納税者本人に配偶者と子どもの扶養家族2人がいる場合、世帯で計12万円の減税となる。
所得税、住民税とも納税していない低所得の非課税世帯には、1世帯7万円を給付する。
生活が苦しい非課税世帯には即効性のある支援が必要だ。給付が世帯単位のため、家族の人数によって非課税世帯が不公平にならない丁寧な対策も求めたい。
減税は、過去2年間で3兆5千億円増えた所得、住民税収を国民に還元するという岸田文雄首相の考えに基づく。
実施は来年6月で、首相は賃上げの時期に併せたとしている。
しかし、家計にとって物価高の支援がほしいのは賃上げが実現するより前だろう。半年以上も先になっては説得力を欠き、国民感覚とずれがある。
減税で需要が刺激されれば、さらなる物価高や人手不足を助長する恐れがある。
一方、防衛力強化の増税を見越し、減税分が貯蓄に回る可能性もあり、効果は見通せない。
首相は減税の狙いを「デフレから完全に脱却し経済成長につなげる」と強調した。
9月の全国消費者物価指数は(生鮮食品を除く)は前年同月より2・8%上昇し、25カ月連続で前年同月を上回った。景気は回復しているとも指摘される。
そうした中でこれほど巨額の経済対策が必要かどうか、冷静に考えなくてはならない。
今回の補正予算では13兆1千億円を一般会計に計上する。
物価高対応の経済対策で約29兆円を計上した昨年10月の第2次補正予算よりは減るが、4兆円前後だった新型コロナウイルス禍前の水準は大きく超える。
ウイルス禍を経て、財政支出を平時に戻すとしていた政府の方針との整合性も問われる。
財源の一部は借金に当たる国債発行で賄わざるを得ないが、23年度末に1068兆円まで拡大する見通しだった国債残高がさらに積み上がることになる。
増えた税収を借金返済に充てず、ばらまきの対策を重ねていては、財政悪化が避けられない。
政府は財政規律についてもしっかりと意識してもらいたい。
