何のために供託を言い出したのか。財産保全の規制を避ける苦し紛れの策との批判があり、財産隠しの懸念を払拭できない。

 政府から10月に解散命令請求をされた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が、東京の教団本部で記者会見した。

 田中氏は元信者らへの被害補償が必要になった際の原資として、60億~100億円を国側に供託する意向を表明した。

 何度も「おわび」を口にしたが、補償を求める元信者らへの謝罪ではないとした。誰へのおわびなのかが分からない。

 解散命令請求には「信教の自由、法の支配の観点から到底受け入れることはできない」と述べ、改めて全面的に争う姿勢を示した。

 高額献金で生活が破綻した人や信仰を強制される2世らの訴えを正面から受けとめ、反省しているようには思えない。

 供託額について、田中氏は、全国統一教会被害対策弁護団が集団交渉で教団に請求している約39億円を踏まえ、「念のため100億円」を最大値とした。

 教団の財産は解散命令が確定すると清算される。供託には補償費用を確保する姿勢を鮮明にして、海外流出などの財産隠しを防ぐ規制策に関する動きをけん制する狙いがあるのだろう。

 政府高官は「受け取る法的根拠がない」と否定的な見解を示す。供託に批判をかわす意図があるなら当然の反応だといえる。

 弁護団によると、潜在的被害額を含めれば請求は1千億円程度になる可能性がある。

 文化庁調査でも、これまでに判明した被害規模は和解や示談を含め総額204億円に上る。

 被害を補償するには、供託するとした100億円では到底足りないのではないか。救済の本気度を疑わざるを得ない。

 財産の海外流出について、田中氏は「解散命令裁判が確定するまでは、資金の海外移転は考えていない」と説明した。

 だが会見に同席した幹部は、信者が現金を持って世界教団本部がある韓国に渡航し、直接献金している実態を認めた。

 解散命令前の資産移転を規制する法律はなく、財産を保全できない懸念は残っている。

 立憲民主党と日本維新の会は、それぞれ財産保全に関する法案を提出している。解散命令請求された宗教法人が対象で、裁判所が財産保全を命じることができる。

 自民、公明両党は被害者救済に向けた関連法案を検討中だが、財産保全に特化した立法には慎重で野党案とは溝がある。

 教団は会見で総資産額を明らかにしない一方で、財産保全の法整備に忌避感をあらわにした。

 与野党は被害者救済に実効性のある法案を協議し、速やかに成立を図ってもらいたい。