1977年11月15日、13歳だった新潟市立寄居中学1年の横田めぐみさんが、北朝鮮に拉致されてから間もなく46年になる。今なお取り戻せていないことが悔しい。
父滋さんは3年前に87歳で亡くなり、同じ年齢になった母早紀江さんは入退院を重ねている。今月初めには「何年生きられるか分からないが、元気で会わせてほしい」と語った。
早紀江さんは「イライラし続けて、もうくたくた。歴代の総理が『今こそやります』と言っても、何も起こらない」とこぼす。政府への疑問がにじみ、やるせない。
未帰国の政府認定拉致被害者の親世代で存命なのは、早紀江さんと、有本恵子さんの父で95歳の明弘さんの2人になっている。
拉致被害者17人のうち、めぐみさんや佐渡市の曽我ミヨシさんら12人は帰国していない。
岸田文雄首相は拉致問題について「一刻の猶予もない」と繰り返す。言葉だけではなく、早期救出へ全力を尽くすべきだ。
首相は今臨時国会の所信表明演説で、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との会談実現に向けて首相直轄のハイレベル協議を推進するとした。あらゆる外交手段を用い、局面を打開していく必要がある。
先月、別の日本人拉致事件で国際手配されていた容疑者が、数年前に死亡していたとの情報が韓国側から寄せられた。
高齢化しているのは拉致被害者や家族にとどまらない。真相解明の鍵を握る容疑者が亡くなれば、捜査は一層困難になりかねない。
忘れてはならないのは、未認定だが、拉致された可能性がある特定失踪者の問題だ。
本県には、新潟市西蒲区出身の大沢孝司さんや、長岡市の中村三奈子さん、糸魚川市の藤田進さんら6人がいる。
めぐみさんが「北朝鮮にいる」との情報がもたらされたのは1997年だった。2002年に北朝鮮が拉致を認め、「拉致事件」となるまでは「拉致疑惑」とされ、政治や世論の関心が高かったとは言えない。
早紀江さんは、特定失踪者家族の立場を「『拉致疑惑』とされていた頃の私どもと全く同じ」と指摘する。政府をはじめ関係機関は、特定失踪者にきちんと光を当てていかねばならない。
拉致などの強制失踪について調査を進める国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が、特定失踪者の家族らから状況を聞き取った。家族らの証言を国際社会への訴えに生かしてもらいたい。
若い世代に拉致のむごさや未来への課題を伝えることも重要だ。
現状を変えていくには世論の力が欠かせない。11日に新潟市中央区で「忘れるな拉致 県民集会」が開かれる。改めて、拉致被害者や特定失踪者の早期救出に向けて県民の思いを一つにしたい。
