セクハラ被害を受けた女性隊員がまた退職に追い込まれた。ハラスメント根絶の意識が組織内に浸透しておらず、深刻な事態だ。

 防衛省は、海上自衛隊の呉地方総監部(広島県呉市)の部隊で昨年8~12月ごろ、女性隊員へのセクハラ行為があり、女性が面会を拒否していたのにもかかわらず、加害者の男性海曹に直接謝罪させていたと明らかにした。

 女性は、同僚で階級が上位の海曹に背後から抱き付かれたほか、胸を触られたり、性的な発言をされたりする被害を受け、直属の上司に相談した。

 しかし、所属部隊ナンバー2の1等海佐は約3カ月間、上級部隊に報告しなかった。面会を強要し、海曹を擁護する発言もあった。

 幹部による二次被害が露呈し、被害への速やかな対処や、被害者に寄り添った対応も、まったくできていなかったと言える。

 女性は今年に入り退職した。「セクハラ行為や上司の対応が許せない」と述べたという。さぞ無念だっただろう。

 防衛省は、元陸上自衛官の五ノ井里奈さんが実名で性被害を訴えたことをきっかけに、昨年9月以降、全自衛隊を対象にした特別防衛監察を実施していた。

 海自のセクハラは、組織を挙げてハラスメント撲滅に取り組むさなかに行われたことになる。

 「上意下達の組織でこれだけ意識が浸透しないのは、トップも含めて本気で解決しようという気がないからだ」と識者は指摘している。防衛省は重く受け止めなくてはならない。

 海自は、セクハラをした海曹を停職10カ月、1佐を停職3カ月の懲戒処分にした。

 これだけではない。海自2佐が同僚の尻を蹴ったほか、陸自1佐が部下に暴言を吐くといったパワハラで、それぞれ懲戒処分を受けるなど不祥事が相次いでいる。

 8月に結果が公表された特別防衛監察では、パワハラやセクハラなど1325件の申し出があった。組織のハラスメント体質の根深さを物語る。

 心配なのは、このうち6割以上にあたる850件が、内部の相談員や窓口を利用しなかったと回答したことだ。

 その主な理由に「かえって不利益を受ける恐れもある」「相談しても改善が期待できない」が挙がった。女性に面会を強要した1佐の行為は典型的な事例だ。

 被害を訴えた人の聞き取りでは「事を大きくすると職場にいられなくなるぞと言われた」など脅しとも取れることや、「指揮官が上級部隊と結託してもみ消した」との声もあったという。

 申告した人を守れるような組織風土に変えていかねばならない。

 ハラスメントについてしっかりと学び、隊員一人一人の意識改革に取り組むことが急務だ。