国民に納税を求める立場の財務省の副大臣が、税を滞納していたのでは話にならない。更迭は当然で、首相の判断は遅すぎる。

 政務三役の不祥事で昨年に引き続き「辞任ドミノ」が起きる事態は異常だ。首相は任命責任の重さを自覚するべきだ。

 岸田文雄首相が13日、過去に税金を滞納していたことを認めた自民党の神田憲次財務副大臣を事実上、更迭した。

 神田氏は2013年から22年にかけて、自身が代表取締役を務める会社が保有する土地・建物の固定資産税を滞納し、4回にわたり差し押さえを受けていた。

 物価高に賃金の伸びが追い付かず、家計が圧迫される中でも、国民は税や保険料の負担を通じて国の政策を支えている。

 首相が表明した所得税と住民税の減税策や、防衛増税もあり、税への関心は高まっている。

 それなのに税制を所管する財務副大臣が税を滞納していては、国民への説明に説得力を欠く。

 滞納について神田氏は、国会議員になって文書管理などがおろそかになったとし、納税の督促状などへの対応は事務所のスタッフに任せていたと説明した。

 神田氏は税理士資格を持っており、税への認識は人一倍深いはずだ。それが滞納にとどまらず、4回も差し押さえを受けるのはあまりに不可解だ。滞納の全容を明らかにしてもらいたい。

 疑問なのは、週刊文春電子版がこの問題を8日に報じた直後から、すぐに更迭するよう求める声が自民党内にもありながら、官邸の動きが鈍かったことだ。

 月内成立を目指す23年度補正予算案の審議に悪影響が危惧され、地方選挙で自民が敗北する厳しい結果を受けて、ようやく首相は更迭に踏み切った。

 9月発足の再改造内閣では、10月26日に山田太郎文部科学政務官が女性問題で辞任し、同31日に公選法違反事件に絡んで柿沢未途法務副大臣が辞任している。

 3週連続の辞任劇を避けたかったと官邸筋は振り返るが、時間がたてば状況が好転するわけではなく、甘い判断だ。

 昨年の閣僚4人の辞任ドミノで首相は判断が遅いと批判されたはずだ。しかし今回の対応を見ていると、首相がその手痛い経験から学んだように思えない。

 第4派閥の領袖(りょうしゅう)で党内基盤が弱い首相は、副大臣・政務官人事で各派閥の推薦を丸のみした。

 それによって起用前にスキャンダルの有無を調べる「身体検査」が緩くなり、辞任ドミノを引き起こしたのなら自業自得だ。

 支持率が急落する中で、減税策をはじめ、首相の場当たり的な政策や人事の打ち出しが目立つ。

 首相は政権存続を意識するばかりでなく、腰を据え、国民のために職責を果たさねばならない。