世界情勢が不安定化する中で、米中両大国のトップ同士が直接対話したことには意義がある。緊張緩和に向けて対話を継続し、確かな関係改善を図ってほしい。

 バイデン米大統領と中国の習近平国家主席が15日、米西部サンフランシスコ近郊で会談した。両氏の首脳会談は1年ぶりで、約4時間にわたり話し合った。

 国防当局や軍高官による対話の再開で合意し、中国で解任された国防相の後任が決まり次第、米国防長官と会談する。

 軍同士の対話は、昨年8月に米下院議長が台湾を訪問したことに中国が反発し、中断していた。

 今年2月に中国の偵察気球が米本土上空を飛行し、米軍が撃墜してからは、台湾海峡や南シナ海で中国軍艦が米軍艦に異常接近するといった事態が続いていた。

 不測の事態から軍事的な衝突が起きれば、米中間の問題にとどまらず、国際的な安定が揺らぐことになりかねない。

 バイデン氏は「競争が衝突に転じないよう管理しなければならない」と表明した。衝突回避にはトップに限らず、あらゆるレベルの意思疎通が重要だ。

 望まぬ事態に発展させないように、対話復活を好機にしっかりと歩み寄ってもらいたい。

 心配なのは、台湾を巡って両首脳が応酬し、火種がくすぶっていることが露呈したことだ。

 習氏は、台湾が米中関係で最も敏感な問題だとして「必ず統一する」と決意を示した。米国に台湾への武器支援停止を求めた。

 バイデン氏は、台湾海峡の平和と安定の維持が重要だと主張した。習氏に来年1月の台湾総統選に介入しないよう警告した。

 会談で融和を演出したとはいえ、信頼関係にあるとは言い難い。台湾を巡り再び対立が深まれば、緊張が高まる恐れがあり、地理的に台湾と近い日本は影響が避けられない。日本としても米中の動向を注視する必要がある。

 ハイテク分野の協議では、両首脳が双方の姿勢を非難し、平行線に終わった。輸出規制などの情報交換を実務者で続ける方針を確認するにとどまり、軍事転用につながる半導体など先端技術を巡る溝の深さを印象付けた形だ。

 一方、人工知能(AI)に関する対話構築や気候変動対策の協力では合意した。中国製原料が使われる医療用麻薬の米国での乱用問題への対策や、米中間の旅客便大幅増などでも一致した。

 一定の成果ではあるが、これらは対立が深刻化する中でも協調しやすい分野であり、緊張緩和につながるかまでは見通せない。

 中東やウクライナ情勢も協議した。戦争状態にある関係国に多大な影響力を持つ両国が健全な関係を築くことは、世界の安定に資する。両国首脳にはそのために手腕を発揮することが求められる。