トップ同士が率直に協議することは、山積する懸案解決の近道になるはずだ。会談を契機に日中両国には、具体的な成果につなげることが求められる。
岸田文雄首相は16日、米サンフランシスコで中国の習近平国家主席と1年ぶりに会談した。
両首脳は、国際的課題で日中両国が共通の利益を拡大させる「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとした方針を確認し、あらゆるレベルで緊密な意思疎通を重ねることで合意した。
友好な両国関係に戻ることが期待される。しかし会談は隔たりを埋められたというには程遠い。
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出では、首相が科学的根拠に基づく冷静な対応と輸入規制の即時撤廃を求めたが、習氏は処理水を「核汚染水」と呼び、日本に「責任を持って建設的態度で適切に対処すべきだ」と求めた。
両首脳は、協議と対話を通じて問題を解決する方法を見いだしていくことで一致した。
とはいえ、日本は譲歩を得られず、亀裂を修復する難しさをうかがわせたと言える。今後、専門家レベルで行う議論で、解決策を見つけられるかが鍵となる。
中国当局によるスパイ容疑での邦人拘束が後を絶たず、首相は会談で邦人の早期解放を求めた。
日本外務省によると2015年以降、中国はスパイ行為を理由に日本人17人を拘束し、計10人の実刑判決が確定した。起訴されていない人も含め、現時点で5人が中国国内にとどめられている。
こうした状況が続けば、日本企業の中国進出や投資判断への影響は避けられない。中国政府は早急に解放に応じるべきだ。
両国の経済は苦境にある。日本は急激な円安で家計を圧迫され、中国は不動産市場の低迷などで経済減速が著しい。
中国にとって高い技術力を持つ日本企業との交流は利点が多く、日本には最大の貿易相手国である中国の存在は大きい。両国関係の安定は、双方が経済の立て直しを図る上で重要な意味がある。
懸念されるのは、中国が日本周辺で軍事活動を活発化させ、不安定さが増幅していることだ。
沖縄県・尖閣諸島周辺では、領有権を主張する中国の海警局船による領海侵入が常態化している。中国が日本側の排他的経済水域(EEZ)にブイを設置し、首相は会談で撤去を求めた。
台湾問題では、首相が台湾海峡の平和と安定を求めたが、習氏は日中関係の政治的基礎に関わるとし「関係の基礎を損なわないようにするべきだ」とけん制した。
日米韓の安全保障上の連携強化などで、国際的孤立が進むことへの警戒感も中国にはある。
日中両国は緊張緩和に向けて一致点を見いだし、東アジアの安定を図るべきだ。
