夢と希望を持って入団した若い命を守ることができなかった。閉鎖的な組織風土を含め、事実関係を徹底的に再検証し、真相を解明することが急務だ。

 宝塚歌劇団の宙(そら)組に所属する25歳の俳優女性が9月に急死した。

 遺族側は、過重な業務や上級生のパワハラで心身の健康を損ない、自殺に至ったと訴えた。急死までの1カ月間、時間外労働は「過労死ライン」を大幅に超える推計約277時間だった。

 女性の急死を受けて歌劇団は、外部弁護士らのチームによる調査報告書を公表した。

 報告書は、女性が新人公演のまとめ役を担い、上級生からの指導・叱責(しっせき)などを受けた結果、「精神障害を発病させる恐れのある強い心理的負荷」がかかっていた可能性があると結論付けた。

 歌劇団の木場健之理事長は「安全配慮義務を果たせていなかった」と謝罪した。ただ、女性個人へのいじめやハラスメントは「確認できなかった」とした。

 報告書と遺族側の主張には大きな隔たりがある。

 2月に週刊誌が、女性が上級生からヘアアイロンを額に当てられてやけどを負ったと報道した際、歌劇団側は事実無根との声明を発表した。遺族側は、歌劇団側に一方的に否定され、女性が体調を崩すようになったとする。

 一方、報告書は、やけどの件は故意だとは判断できなかったとした上で、雑誌に情報を漏らしたと疑われていると女性が悩んだ可能性はあるとしている。

 遺族の代理人弁護士は、歌劇団側のハラスメントの扱いを「劇団と上級生の責任を否定する方向に誘導している」と批判する。

 遺族側は、極度の過労状態に置きながら歌劇団が見て見ぬふりをしたことの責任を訴えている。

 過酷な労働環境も見過ごせない。歌劇団では入団5年目までは雇用契約だが、6年目からフリーランス契約で労働基準法の適用外となる。女性は入団7年目だった。

 歌劇団が「外部」として調査を依頼した弁護士事務所に、歌劇団を運営する阪急電鉄の関連企業の役員が所属していることも分かった。調査の公正さを担保できるのか疑問がある。

 歌劇団は、事実関係をしっかりと再調査した上で、遺族と向き合うべきだろう。

 歌劇団は華やかさの陰で、規律を重んじ、厳しい上下関係を伝統としてきた。歌劇団OGは「どんなに暴言を吐かれても上級生には反論できず、謝り続けるしかない」と内情を明かす。

 歌劇団は公演や稽古日程の見直しなどを柱とする改革案を示したが、組織体質が変わらなければ、悲劇が繰り返される恐れがある。

 上級生の言動が絶対視され、家族に相談することすらご法度という閉鎖的な組織の改革が必要だ。