長く苦しんできたデフレから脱却できるかどうか、重要なタイミングだ。業績が好調な大企業は、社会的な責務として継続的に賃上げを行ってほしい。地方や中小企業にも広げることで、経済の好循環を実現させたい。

 政府と労働団体、経済界の代表による政労使会議が官邸で開かれた。岸田文雄首相は2024年春闘に向け、23年を上回る賃上げを経済界に要請した。

 これに対して経団連の十倉雅和会長は会議後の取材に「今年以上の賃上げを目指す意気込みで、熱を傾けている」と応じた。

 連合は5%以上の目標を掲げる。機運を醸成し、23年を上回る賃上げ実現に手を尽くしてほしい。

 23年春闘では、経団連の最終集計で会員の大手企業の平均賃上げ率が3・99%、中小企業が3・00%となり、いずれも約30年ぶりの高水準となった。

 とはいえ、物価の上昇には追い付かず、実質賃金は18カ月連続でマイナスを記録している。

 上場企業の23年9月中間決算の純利益合計額は過去最高水準となる見通しだ。円安や商品価格の値上げが主な要因だが、家計には打撃となっている。

 実際、節約意識の高まりで個人消費が振るわず、7~9月期の実質国内総生産(GDP)は3四半期ぶりのマイナス成長となった。

 企業は利益を過度に内部留保に回すのではなく、今は労働者に還元することを優先してほしい。

 物価上昇を上回る一段の賃上げが消費の拡大につながり、企業収益が増えるという好循環を確かなものにしたい。

 課題となるのは、賃上げの流れを経団連に加盟するような大企業から全国各地の中小・零細企業に広げていけるかどうかだ。

 政労使会議で岸田首相は「労働者の7割が中小企業で働いていることを踏まえ、中小企業が使いやすいよう賃上げ税制を拡充する」と述べた。

 経団連の「経営労働政策特別委員会報告」原案も、会員企業に対し、中小企業が労務費を適切に価格転嫁できるよう価格交渉を進めることを求めた。

 余力の小さい中小企業の賃上げに、政府と大企業が大きな役割を果たしてもらいたい。

 大都市と地方との格差是正も忘れてはならない。連合の集計では、23年春闘の平均賃上げ率は全国で3・58%だったが、本県(連合新潟)は3・31%だ。

 本県をはじめ地方で進む人口減少、人口流出の要因の一つは大都市との賃金格差といわれる。本県の最低賃金は931円だが、東京は1113円となっている。

 地域の衰退を防ぐ意味もある。県内の経営者には前向きに賃上げを考えてほしい。非正規労働者の処遇改善も不可欠だ。労働組合が存在感を発揮してもらいたい。