台湾海峡をはじめとする東アジアの平和と安定へ密接に関わる重要な選挙だ。中国との関係について候補者の主張を注視し、有権者の判断を見守りたい。
来年1月の台湾総統選に向け、与党の民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統、最大野党の国民党の侯友宜・新北市長、野党第2党の台湾民衆党の柯文哲・前台北市長の3氏が立候補を届け出た。
野党は候補一本化を協議したが決裂、中国が台湾独立派と見なす頼氏が優位な構図が固まった。
頼氏は、中国と台湾は不可分の領土とする「一つの中国」を認めない蔡英文総統の現状維持路線を維持し、民進党政権の継続を目指している。
一方、対中融和路線の野党側は、現政権は中国と激しく対立して安全保障環境が悪化したと主張する。中国との対話の重要性を強調し、政権交代の必要性を訴える。
中国の習近平指導部は、蔡政権との対話を一切拒否し、台湾統一に向けて武力行使を辞さない姿勢を示している。
頼氏が当選すれば、中国が台湾への圧力を強めることが確実だとみられる。台湾海峡の緊張が一層高まりかねない。
総統選に関連し、中国の台湾担当報道官は「台湾は平和と戦争、繁栄と衰退の二つの選択に直面している」と強調し、「台湾独立は戦争を意味する」と述べた。
軍事力をバックにした介入は許されない。偽情報を大量に発信するなどして世論の分断を狙う「認知戦」への警戒も欠かせない。
野党一本化の動きには「中国の影」もちらついた。侯氏も柯氏も対話を重視する対中政策に大きな違いはなく、協議を主導したのも中国に極めて近い馬英九前総統(国民党)だった。
両氏とも世論調査で6割以上が政権交代を望んでいるとしたが、総統候補を譲りたくない思惑があり、協議は決裂した。
一本化に期待を寄せた有権者は戸惑いを覚えたのではないか。
緊張する中台関係の背景には、米中両大国の対立がある。
先の米中首脳会談で、バイデン米大統領は中国に総統選に介入しないよう警告し、習氏は米国に台湾への武器支援停止を求め、議論の応酬となった。
中国軍は台湾海峡での軍事活動を常態化させている。統一に向けた武力行使により、台湾をウクライナ、中東に続く「第3の戦線」としてはならない。
半導体の世界的供給源である台湾で有事が発生すれば、世界経済への打撃も大きい。米中はトップをはじめ軍官民挙げて衝突防止に意思疎通を図るべきだ。
米国と同盟関係にある日本のリスクも懸念される。中国との対話を通して、台湾有事や東シナ海などでの軍事衝突を防ぐ取り組みが求められる。
