審議で多くの問題点を指摘しながら、採決では野党の賛否が割れた。与党を利する結果で、野党間の溝が一層深まる恐れがある。今後の連携に不安が残る。
政府の経済対策に必要な財源を裏付ける2023年度補正予算が、与党の自民、公明両党のほか、野党の日本維新の会と国民民主党などの賛成で成立した。
低所得世帯への給付金やガソリン補助などの物価高対策を盛った経済対策が年内に始動する。補正予算に続く24年度予算に所得税などの定額減税を反映する。
国会論戦で浮かんだのは、経済対策の財源のあいまいさだ。
減税策では、岸田文雄首相が過去の税収の増加分を「還元」するとした一方、鈴木俊一財務相は増加分は既に使われたとし、減税をしなかった場合と比べ、国債の発行額が増加すると明言した。
予算の剰余金は、半分を国債の償還に充て、残り半分を補正全体で使うことが多いが、今回は22年度剰余金の半分を防衛費に回し、他の事業は国債発行で賄った。
歳入は7割近くが国債で、野党が「将来世代への負担の先送りだ」と批判したのは当然だ。
奇異に映るのは、政府の減税策を追及していた維新が賛成に回ったことだ。社会保険料減免を柱とする独自の経済対策も、政府の対策には盛り込まれなかった。
賛成したのは、補正予算に維新が誘致を主導した大阪万博の会場建設費の一部が含まれるためだという。苦渋の決断なのだろうが、審議との一貫性を欠いている。
国民はガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除の検討と引き換えに賛成した。
既に与党と協議を始めたが、国民は22年度当初予算でもトリガー条項の協議を口実に賛成しながら、凍結解除は先送りされた経緯がある。再び同じ結果になれば信頼が失墜しかねない。
首相には予算を通じて、立憲民主党に代わる野党第1党を目指す維新や、連立与党入りがくすぶる国民を利用し、野党の分断を図りたい思惑があるのだろう。
国民の前原誠司代表代行が新党結成を表明した。維新との連携に期待を寄せているという。こうした動きが広がれば、野党の枠組みを揺るがす可能性がある。
気がかりなのは、与党と維新や国民との距離感が近づく中で、与野党の幅広い合意形成を軽んじる気配が見えることだ。
衆院憲法審査会で、公明が立民を除く改憲勢力だけで条文案検討に着手する可能性に言及した。
国の根幹をなす憲法を巡る議論は、合意を図りながら丁寧に進めなくてはならず、野党の足元を見るような対応は慎むべきだ。
野党第1党として立民の責任は重いと言わざるを得ない。巨大与党に対峙(たいじ)するために、野党間の溝を埋める努力を求めたい。
