被害者救済の法案は成立が確実になったが、教団財産が保全される確証はつかめない。補償が担保され、実効性ある法制度となるよう、国会は参院審議でさらなる修正を模索してもらいたい。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済に向けた自民・公明・国民民主3党の特例法案が賛成多数で衆院を通過した。
解散命令を請求された宗教法人が不動産を処分する際に、国や都道府県への通知を義務付けた。監視を強めて財産流出を防ぐ内容だが、財産保全措置については信教の自由に抵触する恐れがあるとして盛り込まなかった。
これに対し、立憲民主党と日本維新の会は、裁判所が保全処分を命じることができるとする法案を共同提出し、自公国の法案では財産の隠匿・散逸を防げないとして批判していた。
調整の結果、自公国が法案の付則で、施行後3年をめどに「財産保全の在り方を含めて見直しを検討する」としたことで立維が賛成に回り、国会審議は前進した。
しかし、救済の当事者が置き去りにされているように映る。
被害者や支援弁護士側が強く望んでいた包括的な財産保全策が含まれず、当事者に落胆が広がっているからだ。
被害者が民事保全手続きや訴訟をしやすくするため、担保金など必要な費用を支援するが、個別の手続きなど自助努力に任せる現状は変わらないと指摘される。
「教団は攻撃的で、長く続く裁判で疲弊した」との被害者の訴えもある。訴訟をしやすくするだけでは救済としては不十分だ。訴訟は手間もかかり、負担の重さから、泣き寝入りする被害者が多く出るようでは困る。
3年をめどとする修正の時期を前倒しすることも、被害者の負担を減らすために必要だ。
衆院の審議は、被害者や支援弁護士らを参考人に呼ばなかった。7日に審議入りする参院の論戦では、当事者らの声にしっかりと耳を傾け、法案に反映させるよう努力してもらいたい。
法案審議のさなか、岸田文雄首相が党政調会長だった2019年に、教団の友好団体トップらと面会していたと報じられた。
首相は「承知していない」の一点張りだが、これまで教団との関係が発覚した政治家に「自ら説明責任を果たすべきだ」と言ってきた以上、詳細を調べてしっかりと説明するのが筋だ。
衆院審議で自民は、宗教法人の財産管理に制約を加えることに慎重な姿勢を示した。被害者の中には自民が今も教団とつながり、法案に影響しているのではないかと疑う向きがある。
そうした見方は被害者だけに限るまい。教団との関係で失った信頼の回復が遠いことを、首相をはじめ自民は強く自覚すべきだ。
