裏金疑惑が内閣の中枢に広がり、官房長官の進退が問われる由々しき事態だ。「政府の立場」や「捜査への影響」を盾に、説明を拒否することは許されない。

 自民党派閥の政治資金パーティー券問題で、松野博一官房長官側が、最近5年間で派閥から販売ノルマを超えた売り上げ計1千万円超のキックバック(還流)を受けたとみられることが分かった。

 政治資金収支報告書に記載されず、裏金になった疑念がある。

 松野氏は最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に所属する。官房長官就任前の2019年9月から21年10月まで、安倍派前身の細田派で事務総長を務め、派内の実務を取り仕切っていた。

 8日の衆参予算委員会の集中審議で、松野氏は説明を求められ、「(官房長官という)政府の立場であり、お答えを差し控える」とし、これまでの記者会見と同様に、答弁拒否を繰り返した。

 これでは、答えられない理由があるのではないかと疑念が湧く。

 野党には説明責任を果たしていないとして辞任を要求する声がある。与党内にも辞任は避けられないとの見方が出ている。

 松野氏は、官房長官として、政権全体の説明責任を負う立場にあることを肝に銘じるべきだ。

 政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)の疑いで捜査している東京地検特捜部は、18~22年に安倍派で1億円超が裏金になり、少なくとも10人以上が還流を受けたとみている。

 ノルマを超えた売り上げ分は事務総長経験者らに還流されたとみられる。松野氏をはじめ、事務総長を務めた西村康稔経済産業相らには説明責任がある。

 岸田文雄首相は集中審議で「閣僚の具体的な発言は、捜査に影響を与える恐れがある。発言を控えなければならない」と述べた。

 疑念を晴らすように促すのではなく、踏み込んだ説明をさせない姿勢は問題だ。

 首相は6日、派閥パーティーの開催を当面、自粛するように指示した。還流問題で初めて示した対応策だが、実態解明の指示ではなく、問題の本筋とずれがある。

 7日には、自身が会長を務めていた岸田派(宏池会)を離脱することを表明した。

 自民党政権では近年、首相は就任後に派閥を離脱するケースが通例だったが、岸田首相は指摘されても派閥の領袖(りょうしゅう)で居続けた。

 離脱には、政治とカネ問題の根源として、派閥が厳しい目で見られていることがあるだろう。

 しかし問題が起きてからの離脱では遅く、批判から逃れるための保身としか思えない。

 首相は、自身が先頭に立って政治の信頼回復に向けて努力するとした。そのために必要なのは、率先して実態を解明することだ。首相は対応を誤ってはならない。