自民党最大派閥を巡る「政治とカネ」問題の底が見えない。うみを出し切り、疑惑の全容を明らかにしなくてはならない。
安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティー裏金問題が、松野博一官房長官、萩生田光一政調会長ら有力者「5人組」と塩谷立座長にも広がり、幹部6人全員が最近5年間にキックバック(還流)を受けたことが判明した。
岸田文雄政権を支える党の幹部や重要閣僚を務める面々である。
政治資金収支報告書に記載せず裏金化する対応が、組織的に行われたことに疑いはないだろう。国民を欺く行為にほかならない。
還流を受けた国会議員は数十人に上り、複数の議員は数千万円を受領したとみられている。
1億円超とされる裏金の総額がどこまで膨らむのか。政治とカネの温床となっている派閥の実態にメスを入れる必要がある。
岸田首相は、安倍派所属の閣僚4人と、同派の副大臣、政務官計11人を変える方針を固めた。党側では萩生田政調会長、高木毅国対委員長が交代する見通しだ。
13日の臨時国会閉会後、週内にも実施する案が浮上している。
安倍派を重んじた人事が足かせとなり、岸田政権そのものが崩壊しかねない状況にある。
会期末で補正予算案をはじめ重要な審議がある中で、国会は混乱している。
安倍派内では2022年のパーティー開催前に、還流しない方針が議員側に示されたが反発を招き、開催後に還流が実施されたという。23年は早期に方針が示され、還流はなかったとみられる。
しかし、裏金が長く続いた慣習であることからすれば、自浄作用を期待するのは難しい。政治資金規正法を抜本的に見直し、対策を強化することが不可欠だ。
自民党が慎重姿勢を示し、見直しが進まない調査研究広報滞在費(旧・文書通信交通滞在費)の使途公開などを含め、政治資金全体の透明性確保を急ぐべきだ。
還流は、橋本聖子元五輪相側にもあったことが分かった。
東京五輪を巡っては、党の招致推進本部長で安倍派だった馳浩・石川県知事が、招致活動で内閣官房報償費(機密費)を使って贈答品を国際オリンピック委員会(IOC)委員に渡したと発言した。
馳氏は後に撤回したが、疑惑は残った。五輪とカネの問題がくすぶる中で、五輪相への還流発覚は新たな疑念を生じさせる。
「政治とカネ」を巡る疑いは、党全体に向けられており、閣内から安倍派を一掃したところで、問題は解決しない。
首相は安倍派の問題とせず、党全体の改革に指導力を発揮し、改善策を示す重い責任がある。
表に出ない巨額のカネを政治家が操っているようでは、国民の政治不信が止まるはずもない。
