幅広い政策が並び、国民の負担が増えない確証はない。将来にわたって施策を支える安定した財源確保は難しく、支援の公平感にも課題が残る。
政府は、「次元の異なる少子化対策」の具体的な政策や財源を盛り込んだ「こども未来戦略」案を公表した。
3人以上の子どもを育てる多子世帯の大学授業料など高等教育費無償化や、児童手当の拡充などを打ち出した。
年3兆円台半ばとしていた財源は、3兆6千億円程度でまとまった。既存予算を最大限活用し1兆5千億円、社会保障の歳出削減で1兆1千億円、幅広い世代や企業からの「支援金」で1兆円の3本柱で捻出することを示した。
支援金は公的医療保険料に上乗せして2026年度から徴収するが、一人一人の負担額は明示されなかった。
平均で月500円程度とみられ、加入する医療保険により異なる。現役世代がより多く負担する形になり、低所得者らには軽減措置を講じるという。詳細について早急に示してもらいたい。
岸田文雄首相は少子化対策での増税を早々に封印し、「実質的な追加負担を求めない」と強調してきた。歳出削減と賃上げで社会保険の負担を軽減し、その範囲内で支援金を徴収するという。
国民所得に対する社会保障などの負担割合である「国民負担率」は上昇しないと説明するなど、負担増のイメージ回避に躍起だ。
しかし高齢化で、医療や介護の費用を大きく削減するのは難しい。賃上げも景気の動向に左右され確実に行われるか見通せない。
これでは本当に新たな負担が生じないのか疑問だ。
政府は当面の不足分は「こども・子育て支援特例公債」を発行して対応するとしているが、安定財源の確保が遅れれば、少子化対策の借金が膨れ、将来世代の負担が増えかねない。
多子世帯の負担軽減に重点が置かれ、子どもの数で支援に差が生じてしまうことも気がかりだ。
25年度に始める高等教育費無償化の恩恵を受けられるのは、子ども誕生から約20年後だ。3人きょうだいでも就職などで1人が扶養を外れれば対象にならない。
現行制度の上限額を当てはめるため、私大授業料で自己負担が残るケースもあり、効果は限定的との指摘もある。
経済的な理由で子どもを持つことに不安を抱く若者もいる。多子世帯への目配りも大事だが、1人目や2人目を育てやすい経済的支援にも力を注ぐべきではないか。
政府は戦略案を年内に閣議決定し、来年の通常国会に関連法案を提出する意向だ。
安心して子どもを産み育てられる社会となるよう、さらに議論を尽くしてもらいたい。
