首をすげ替えても沈静化は図れない。疑惑のある政治家に自ら実態を明らかにさせ、国会がカネに関するルールを抜本的に改めるよう導かない限り、失った国民の信頼は取り戻せない。
自民党安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティー裏金問題を巡り、安倍派所属の閣僚4人が14日、辞表を提出した。
事実上更迭された閣僚は官房長官の松野博一氏、経済産業相の西村康稔氏、総務相の鈴木淳司氏、農相の宮下一郎氏で、松野、西村両氏は派閥事務総長経験者だ。
安倍派の副大臣全5人と、6人いる政務官のうちの1人も辞任、内閣から退く所属議員は補佐官を含めて計12人となった。
1千万円超のキックバック(還流)を受けたとみられる松野氏は辞表提出後、「司法関係者も加えて精査し、説明を果たしていきたい」と述べた。約束したことは厳守してもらいたい。
2024年度予算案決定を前に異例の年末人事だ。急場しのぎの感は否めず、岸田文雄首相の政権運営は苦境に立たされる。
安倍派の裏金還流は最近5年間で5億円に上る可能性があり、東京地検特捜部は近く強制捜査に乗り出す。聴取は所属議員99人のうち数十人規模になる見通しだ。
首相は強制捜査前に、一気に人事を刷新し、政権立て直しを図ろうとしたのだろう。当初は政務三役15人全員の交代という安倍派一掃で幕引きをもくろんだ。
だが適正に処理した議員がいるかもしれず、一蓮(いちれん)托生(たくしょう)の手法は「安倍派というだけで切り捨てられる」などと反発された。
無派閥議員や閣僚経験者を当て込んだ後任人事も難航した。背景には党内での「岸田離れ」があるようで、進んで泥船に乗る人材は容易に見つからなかった。
内閣の要となる官房長官には岸田派の林芳正前外相を起用した。政権基盤が揺らぐ中、出身派閥に頼らざるを得なかったといえる。
党側では、予算案決定まで職務を続ける萩生田光一政調会長、高木毅国対委員長の2人と、世耕弘成参院幹事長も辞める。
松野、西村両氏と合わせた安倍派実力者「5人組」を要職から一掃することで、政権は最大派閥の後ろ盾を失うことになる。
首相への遠心力が働く中で、派閥の力を借りずに難局を乗り越えられるか、覚悟と指導力が改めて問われている。
裏金問題を巡っては、辞任した防衛副大臣の宮沢博行氏が、派閥側から還流を外部に話さぬよう口止めされていたと明かした。
岸田派でも3年間で2千万円超のパーティー券代を政治資金収支報告書に不記載だったことが判明し、問題は広がりを見せる。
首相はカネと派閥の問題で先頭に立ち、何を、どうするのかを具体的に語らねばならない。
