実名を公表して性暴力を告発した勇気を受け止める判決だ。ハラスメントが犯罪だと認められた事実は重い。根絶に向けて、判決を社会が変わる契機にしたい。
陸上自衛隊に所属していた五ノ井里奈さんが実名で訴えた在職時の性被害で、強制わいせつ罪に問われた当時の上司3人に、福島地裁は懲役2年、執行猶予4年の判決を言い渡した。
判決によると、3人は他の隊員らと飲食中、それぞれ格闘技を使って五ノ井さんをベッドにあおむけに倒し、覆いかぶさって着衣越しに下腹部を押し付けた。
公判で3被告は「宴席で笑いを取るため腰を振った。性的意図はなかった」などとして無罪を主張したが、地裁は五ノ井さんの被害証言の信用性を認め、被告側の供述は「不自然不合理で信用できない」と指摘した。
見逃せないのは、地裁が被告らの行為を「笑いを取るためで性的意図がなかったとしても、性行為を容易に連想させ、わいせつ行為に当たる」と判断した点だ。
被害者の人格を無視し、宴会を盛り上げる単なる物として扱うに等しく、性的羞恥心を著しく害したと断じたことは意義がある。
強制わいせつ罪は、かつては加害者に性的な意図がなければ成立しないとされたが、最高裁は2017年に、被害者が受けた性的被害の有無や内容、程度に目を向けるべきだとして判例を変更した。
「悪いことは悪いとしっかり判断してもらえた。前例を作れた」と述べた五ノ井さんの言葉をかみしめたい。
被告3人は、一度は不起訴となったものの、不起訴不当とする検察審査会の議決を受け、再捜査で在宅起訴されていた。
防衛省による特別防衛監察が行われた後、五ノ井さんに直接謝罪したが、公判では一転して無罪を主張した。直接謝罪は自らの意思ではなく、自衛隊に指示されたものとも供述した。
真に反省していたわけではなく、自らの行為の深刻さに気付いていなかったに違いない。
五ノ井さんは、計7回の公判全てに被害者参加人として出席し、体調不良のため法廷で倒れたこともあった。性被害を公にすることの過酷さを物語っている。
フラッシュバックに苦しみ、誹謗(ひぼう)中傷にもさらされている。身を削って立ち向かう被害者を、心ない言葉で中傷することは許されず、あってはならない。
自衛隊のハラスメントに取り組む弁護士グループによると、五ノ井さんの告発後、相談は増え続けているという。ハラスメントは犯罪になり得ることを、自衛隊の一人一人が認識してほしい。
職場内ハラスメントは自衛隊に限ったことではない。被害を生まないために、誰もが自らを律し、互いを尊重していきたい。
