減税先行の議論が全体をゆがめ、不確実性が増す内容となった。批判回避の姿勢が目立ち、財源の裏付けが見えない決着となったことには懸念がある。

 2024年度の与党税制改正大綱が決定した。一定水準以上の賃上げを実現した企業の法人税減税を拡充し、物価高を上回る賃金上昇を目指すことなどが柱だ。

 個人向けには、岸田文雄首相が打ち出した所得税と住民税の定額減税を24年6月から実施する。

 一方で、児童手当の支給を16~18歳の高校生年代の子どもがいる世帯に広げることに伴い、この世帯の所得税と住民税の扶養控除を縮小する方針を明記した。

 扶養控除は、所得税で年38万円を25万円に、住民税で年33万円を12万円に引き下げる。時期は所得税を26年以降、住民税を27年度以降としたが、正式決定は来年の25年度大綱に先送りした。

 児童手当拡充で高校生年代を育てる全ての所得層で手取りが増えるものの、扶養控除縮小になれば恩恵は小さくなる。正式決定の先送りには、不人気政策への批判を避けたい思惑が透ける。

 大綱は、扶養控除縮小の代わりに、子育て世帯向けの住宅ローン減税の維持や、生命保険料控除の拡充を打ち出した。

 しかし住宅購入や保険金を増やす余力がある世帯は限られ、政策の効果は不透明だ。

 注目したいのは、大綱が首相肝いりの防衛力強化で、焦点の増税開始時期を示さなかった点だ。

 昨年は与党内の反発で時期が決まらず、与党税制調査会は当初、今年こそ決める姿勢だった。

 だが首相が所得税などの定額減税を示したことで、減税と増税の整合性が国民に理解されなくなった。自民党派閥の裏金問題発覚もあり、見送りを決定した。

 24年度予算案で政府は、防衛費を約7兆7千億円とする方向で最終調整しており、過去最大だった23年度当初を上回る見込みだ。

 財源が定まらない中で支出が膨らめば、他の政策の財源を圧迫していく可能性が高い。本来は今回、増税時期を明確にするべきで、今後の影響が憂慮される。

 税制改正は長年、与党税制調査会が議論をリードしてきたが、近年は首相官邸の力が強まり、与党税調の権威が著しく低下した。

 今回も首相が自らの主導を演出する形で指示を連発し、税調が議論に入る前から定額減税の額や対象が次々と決まった。

 しかし即効性のない減税策は、何のために実施するのか理念が見えない上、増税の実施時期など、急がねばならない議論を停滞させる結果になった。官邸主導による弊害といえるだろう。

 政府は大綱に沿って関連法案を作り、通常国会に提出する。与野党は税制改正の在り方を含め、徹底的に議論してもらいたい。