政府案では、学問の自由が確保されるか甚だ疑問だ。議論の発端となった任命拒否についてきちんと説明しないままでは、信頼関係は回復できない。
政府は、組織見直しを検討している日本学術会議について「国から独立した法人格を有する組織とする」との方針を示した。
学術会議は科学者を代表する「国の特別機関」で、有識者懇談会が先日、「法人化が望ましい」とする方向性を示している。政府案はその内容をほぼ踏襲した。
学術会議が政府に対し、科学的根拠に基づく助言や勧告をできる役割は変わらないとする一方、会員の選考や運営、活動の評価に外部有識者からなる委員会が関与する仕組みを導入するとした。
運営の透明性を高める狙いもあるというが、外部の介入で、学術会議側が求めていた柔軟で自立的な組織運営が難しくなり、独立性が損なわれる可能性がある。
学術会議側は法人化に反対し、国の機関のまま改革を進める案を示していた。
しかし政府側は法人化で企業から資金を得やすくなることや、国会に対して意見が言いやすくなる利点があるなどと説明していた。
政府は年内にも正式決定し、法制化への制度設計に着手する。
学術会議側には「国から離れても自由な活動ができる保証がない」との意見もある。政府は「法人化ありき」ではなく、当事者に歩み寄り、慎重に検討すべきだ。
4月に学術会議法改正案を国会に提出しようとし、国内外からの批判を受けて断念したことを、政府は忘れてはならない。
見直し議論の発端になった菅義偉前首相による会員候補6人の任命拒否は問題になって3年たったが、政府は拒否の理由や経緯をいまだに示していない。
論点をすり替えるように組織改革を提起し、「一連の手続きは終了した」と繰り返している。拒否問題に向き合おうとせず、誠実さに欠ける対応を重ねては不信を増幅させるばかりだ。
学術会議側は拒否の理由説明と6人の任命を求め続け、10月の会員改選では「政府の拒否方針の追認になる」として6人を新会員候補に加えなかった。
「学術会議が役割をより発揮するためには、前提として政府との信頼関係の再構築が重要だ」との声明をまとめたが、政府の姿勢が変わらねば再構築は難しい。
先日閉会した臨時国会では、改正国立大学法人法が成立し、大規模な国立大に運営方針を決める合議体の設置を義務付けた。大学教授や教職員らが「政府の介入が強まる」などと反対していた。
学術会議問題と根は同じだ。自由な発想や研究を阻害する環境になるのではと危ぶまれる。多様な意見の排除につながりかねない見直しは容認できない。
