代執行は国が自治体の権限を奪うことを意味するものだ。それを回避するために、国は力を尽くしてきたと言えるかどうか。

 辺野古への移設反対が根強い沖縄の民意に背けば、国と県の一層の関係悪化が避けられない。国は強い権限を行使する前に、基地負担を強いている沖縄に寄り添い、丁寧に判断することを求めたい。

 沖縄県は25日、宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡る代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部に承認するよう命じられた軟弱地盤改良工事の設計変更について、承認しないと決めた。

 地方自治法に基づく国土交通相による代執行が可能になり、国は28日にも承認を代執行する方向だ。国が地方自治体の事務を代執行すれば初のケースとなる。

 防衛省は来月にも軟弱地盤がある大浦湾側での工事に着手するとみられる。県は最高裁に上告する方針だが、逆転勝訴しない限り、工事を止められない。

 高裁支部は20日の判決で、別の訴訟の最高裁判決で敗訴が確定した県側が承認しないのは法令違反であり、代執行以外での是正は困難だと指摘した。

 だが地方自治法は、国が自治体に委ねる「法定受託事務」への国の関与は最小限度とし、代執行を例外的と位置付けている。自治体の自主性と自立性が配慮されなければならず、国の主張を追認した判決は残念と言うほかない。

 注目したいのは、判決が、国と県の対話による解決を図ることに付言した点だ。

 移設問題を巡って県は、国に対話を求め続けてきたが、実現していない。国と地方の関係は「対等・協力」であり、対話の場を設けようとしない国の対応は著しく誠意を欠いている。

 訴訟ではまた、代執行の要件の「公益侵害」が争点となった。県は知事選などで示された移設反対の民意が公益だと主張した。

 判決は、米軍統治下で基地が建設された歴史を踏まえ、県民の心情は理解できるとする一方、法律論では、法令違反を放置することで害される公益を念頭に置くとした。普天間飛行場の危険性除去が公益だとした。

 民意を公益として考慮しないことには県民の反発があろう。

 一方、普天間の危険性を除去したいという点では、両者の思いに違いはないはずだ。

 政府は辺野古の移設工事完了を12年後と見込むが、難航が予想される。工事が始まったとしても「世界一危険な米軍基地」と呼ばれる普天間は長期間、危険と隣り合わせの状態に置かれる。

 政府は辺野古移設を「唯一の解決策」と繰り返す。だが移設が実現したところで沖縄県全体の基地負担や危険性は変わらない。

 根本的な負担解消に、政府は県民の立場で解決策を探るべきだ。