政治家の不正を暴く組織のはずだ。国民の期待と信頼に応えるため、不適正と判断された手法を深く反省し、厳正な捜査と公判に努めてもらいたい。
2019年参院選での河井克行元法相の買収事件を巡り、元広島市議が東京地検特捜部検事に不起訴を示唆され供述を誘導されたと主張した問題で、最高検監察指導部は、取り調べは不適正だったとの調査結果を公表した。
元市議は、元法相から現金30万円を受領したとして公選法違反(被買収)の罪に問われている。一審判決は有罪で現在控訴中だ。
20、21年に行われた任意聴取や証人テストのやりとりを録音しており、不起訴を約束した違法な捜査だと主張していた。
監察指導部の調査結果によると、元市議は有罪判決が確定すれば議員失職する立場にあった。不起訴処分を強く望んでいたとうかがえると指摘した。
その上で、取り調べの担当検事は「できたら議員を続けていただきたい。そのレールに乗ってもらいたい」「強制とかになりだすとね、今と比べものにならない」などと発言したとした。
これらの発言について調査結果は、元市議に不起訴を期待させ、否認した場合の強制捜査を示唆したと判断した。
筋書きありきの取り調べではなかったか。利益誘導でストーリーを押しつけ、虚偽の自白を得る違法な司法取引の疑いが生じよう。
検察関係者はこうした取り調べは普通にあり、氷山の一角だと明かす。検事は捜査上で絶大な権限を持つ以上、言葉選びや手段を間違えることがあってはならない。
過去の不祥事をきっかけに、検察は裁判員裁判事件と検察の独自捜査事件について取り調べの録音録画を義務付けたが、任意捜査段階のものは含まない。
取り調べの問題は後を絶たず、えん罪事件の被害者は可視化の拡充を訴え続けている。全ての取り調べで録音録画するよう対象範囲を拡大すべきだ。
今回の調査では、元法相の裁判に向けた証人テストについても「証人尋問の公正さに疑念を生じさせるもので、より慎重な配慮が必要だった」とした。
客観的事実よりも、弁護人の反対尋問にどう対応するかを重視したような言動があったとした。
一方、調査に対して捜査幹部は不起訴の約束をするような指示はしていないと述べ、現場の検事らも指示はなかったとしている。
組織的な指示がなかったとする論拠は不十分だ。内部調査だけでなく、第三者を含めた検証作業も求められる。
特捜部は現在、自民党の政治資金パーティーを巡り安倍派幹部の聴取を進めている。不適正な取り調べの疑念を持たれぬよう、検察は細心の注意を払うべきだ。
